判旨
売買契約において、買主が買い受けた土地を学校敷地として無償提供する等の事情は、原則として単なる動機にすぎない。かかる動機が特に当事者間で表示され、法律行為の内容とされたと認められない限り、当該事情の不一致は要素の錯誤に当たらない。
問題の所在(論点)
買受土地の利用目的(無償提供)という「動機の錯誤」が、民法上の「法律行為の要素の錯誤」として認められるか。
規範
売買契約は当事者の一方が財産権の移転を約し、相手方が代金の支払を約することで成立する。そのため、買主が取得した土地を将来どのように利用・処分するかという事情は、原則として単なる契約の動機にすぎない。かかる動機が「法律行為の要素」となるためには、当事者間において当該事情が契約の内容とされたという特別の事績が認められることを要する。
重要事実
売主である上告人は、第三者D・Eらから「被上告人が本件宅地を含む土地を買収し、国民学校の敷地として永代無償で市に提供する」という虚偽の説明を受け、それを信じて被上告人に本件宅地を売却した。しかし、実際には被上告人は後に市と交渉し、別の市有地を無償で借り受けることとなった。上告人は、D・Eらの欺罔による詐欺取消し、または学校敷地として永代無償提供されるという前提が真実でなかったことを理由に、要素の錯誤による無効(旧民法95条)を主張して所有権移転登記手続等を求めた。
あてはめ
本件において、D・Eらが「永代」無償で使用させる旨を述べた事実は認められず、被上告人側にも売却を強いるための欺罔の意思はなかった。また、上告人が「学校敷地として永代無償で提供される」という内心の意向を有していたとしても、その事情が当然に売買契約の内容(要素)に含まれていたとは認められない。契約の成立要件は財産権の移転と代金の対価関係にある以上、買主の利用目的という動機が示唆されたにとどまる本件では、特段の合意がない限り、その内容が真実と異なっても法律行為の要素に錯誤があるとはいえない。
結論
上告人の意思表示に法律行為の要素の錯誤は認められず、売買契約は無効ではない。したがって、上告人の請求は認められない。
事件番号: 昭和37(オ)1458 / 裁判年月日: 昭和38年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】意思表示の動機が相手方に表示されていたとしても、それだけで直ちに法律行為の要素(内容)になるわけではなく、諸般の事情に照らして契約の重要な内容となっていたか否かによって判断される。 第1 事案の概要:本件土地売買契約は、買主側から当該土地を大井権現消防署の敷地の候補地としたい旨の話が出されたことを…
実務上の射程
動機の錯誤が法律行為の要素(または内容)の錯誤として認められるための要件(動機の表示)を示したリーディングケース。答案上は、錯誤取消し(現行民法95条1項2号・2項)の論述において、動機が「黙示的に表示」されていたか否かを検討する際の規範として活用すべきである。
事件番号: 昭和23(オ)128 / 裁判年月日: 昭和24年4月26日 / 結論: 棄却
一 自作農創設特別措置法に基く農地の買収の場合においては、同法第九条の規定による買収令書の交付又はこれに代わるべき公告の手続がなされない限りは当該農地の所有権は、政府に移転しない。 二 農地調整法第四条は、所有権移転登記が虚偽の意思表示に基くものであることを理由として、その登記名義回復のため所有権移転登記手続をする場合…
事件番号: 昭和39(オ)964 / 裁判年月日: 昭和40年10月8日 / 結論: 棄却
不動産の売主が、代金の一部の清算について、買主との間で、売主はその兄が買主に対して負担する借受金債務を引き受け、これと代金債務とを対当額で相殺する旨特約した場合において、当該売買契約は右借受金債務の弁済をも目的として締結されたものであるのに、買主は該債務の債権者ではない等同契約に関し原審の確定したような事情(原判決理由…
事件番号: 昭和30(オ)538 / 裁判年月日: 昭和32年5月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約において、当事者が客観的に特定の範囲の土地建物を売買する意思を持って意思表示をした以上、単に土地の地番や登記上の齟齬を後日認識したとしても、内心的効果意思と表示上の効果意思に不一致はなく、要素の錯誤は成立しない。 第1 事案の概要:売主Aは買主に対し、一号宅地とこれに隣接する係争宅地にまた…
事件番号: 昭和31(オ)818 / 裁判年月日: 昭和33年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表見代理の成否を判断するにあたり、相手方が代理権があると信じたことに正当な理由があるかは、過去の交渉経緯や取引条件の合理性を総合して判断されるべきである。本件では、本人が過去に高値での売却を主張して拒絶した経緯や、代理人が提示した価格が本人の希望を大きく下回る点等に照らし、過失が認められ表見代理は…