判旨
内縁(婚姻予約)の解消において、一方が他方の不貞を疑い一方的に追い出した場合、他方に不貞の事実が認められず、誓約を遵守していたのであれば、他方に婚姻予約不履行の責任はない。
問題の所在(論点)
相手方の過去の不貞を許した後に、相手方の帰責事由がないにもかかわらず一方的な疑いに基づいて婚姻予約を解消した場合、相手方に婚姻予約不履行の責任を問えるか。
規範
婚姻予約(内縁関係)の不当破棄による損害賠償請求が認められるためには、相手方に正当な理由のない債務不履行(予約不履行)が認められなければならない。相手方が過去の過ちを謝罪し、その後の生活において誠実に誓約を遵守している場合には、特段の事情がない限り、債務不履行は認められない。
重要事実
原告(上告人)と被告Bは婚姻予約(事実上の婚姻関係)の状態にあった。Bにはかつて情夫Dがいたが、その事実が発覚した際、Bは深く陳謝し、今後は一切Dと交際しないことを誓約した。原告もこれを許し、生活を継続することに同意した。その後、Bは誓約を忠実に守り、Dには目もくれなかったが、Dが一方的にBへ通信を寄せ続けたため、原告はBが依然として私通を継続していると疑い、Bを実家に帰らせた(事実上の解消)。
あてはめ
本件では、被告Bは過去の非を認めて陳謝し、原告との合意により関係を継続することとなった後、Dとの関係を絶つ誓約を忠実に履行していた。Dが一方的に通信を寄せていた事実はあるものの、それはBの関与によるものではない。したがって、原告が抱いた疑いは客観的事実に反するものであり、原告が一方的にBを実家に帰らせたことは、Bの帰責事由に基づく解消とはいえない。
結論
被告Bに婚姻予約不履行の責任があることを前提とする原告の請求は認められない。上告棄却。
実務上の射程
内縁の不当破棄における帰責事由の有無を判断する際の好例である。一度許容した過去の過ちを蒸し返し、かつ客観的根拠のない不当な疑いに基づいて関係を解消した側の請求は、信義則上も認められにくいことを示唆している。実務上は、解消に至る主導権がどちらにあり、そこに客観的な解消事由(有責性)があるかを認定する際の規範となる。
事件番号: 昭和25(オ)286 / 裁判年月日: 昭和27年10月21日 / 結論: 棄却
原判決(後記)の確定した事実関係のもとにおいては、被告(内縁の夫)は、自己の責に帰すべき事由により原告(内縁の妻)との婚姻の予約を履行不能に陥らしめたものというのが相当である。