妻及び未成年の子のある男性が他の女性と肉体関係を持ち、妻子のもとを去つて右女性と同棲するに至つた結果、右未成年の子が日常生活において父親から愛情を注がれ、その監護、教育を受けることができなくなつたとしても、右女性の行為は、特段の事情のない限り、未成年の子に対して不法行為を構成するものではない。
妻及び未成年の子のある男性と肉体関係を持ち同棲するに至つた女性の行為と右未成年の子に対する不法行為の成否
民法709条
判旨
不貞相手の第三者は、他方配偶者の夫又は妻としての権利を侵害したものとして慰謝料支払義務を負うが、未成年の子に対しては、害意をもって監護等を積極的に阻止するなどの特段の事情がない限り、不法行為責任を負わない。
問題の所在(論点)
1. 夫婦の対等な自然の愛情に基づく不貞行為であっても、配偶者に対する不法行為が成立するか。2. 父親と不貞相手との同棲により父の監護を奪われた未成年の子に対し、不貞相手は不法行為責任を負うか。
規範
1. 配偶者に対する責任:配偶者の一方と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、他方配偶者の「夫又は妻としての権利」を侵害したといえ、不法行為(民法709条)上の違法性を帯びる。誘惑の有無や愛情の成否は問わない。2. 子に対する責任:父親が他の女性と同棲した結果、未成年の子が父の愛情や監護を受けられなくなったとしても、特段の事情(女性が害意をもって父親の子に対する監護等を積極的に阻止するなど)がない限り、不法行為は成立しない。父親の監護等は自らの意思で行えるため、同棲と子の不利益との間に相当因果関係が認められないからである。
重要事実
不貞相手である被上告人は、Dに妻子(上告人ら)がいることを知りながら肉体関係を持ち、一女を出産した。その後、Dは妻子のもとを去り被上告人と同棲を開始。被上告人はDに金員を貢がせたことはなく、Dが妻子のもとに戻るのをあえて反対もしなかった。Dの妻(A1)および未成年の子ら(A2ら)が、被上告人に対し不法行為に基づく損害賠償を請求した。
あてはめ
1. 配偶者A1に対して:被上告人はDに妻子があることを知りながら肉体関係を持った以上、故意にA1の妻としての権利を侵害しており、自然の愛情に基づく関係であっても違法性は阻却されない。2. 子A2らに対して:被上告人はDとの同棲を積極的に求めたものではなく、Dが子の元へ戻ることも反対していない。Dは自らの意思で監護を継続できたのであり、被上告人が積極的に監護を阻止した「特段の事情」は認められない。したがって、子の不利益と被上告人の行為との間に相当因果関係はない。
結論
1. 妻A1への不法行為は成立するため、原審の請求棄却判決を破棄し差し戻す。2. 子A2らへの不法行為は成立せず、請求を棄却した原審の判断は正当として上告を棄却する。
実務上の射程
配偶者に対する不法行為責任を広く認める一方で、子に対する責任については、相当因果関係の理論を用いて極めて限定的に解している。答案上、子からの請求については「積極的な阻止」等の特段の事情がない限り否定する流れとなる。
事件番号: 昭和31(オ)550 / 裁判年月日: 昭和33年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】配偶者のある者と不貞行為を行った第三者は、他方配偶者が不貞を黙認・挑発したなどの特段の事情がない限り、不法行為責任を負う。他方配偶者の不貞や監督不十分といった事由は、賠償額を定める際の過失相殺の対象となり得るにとどまり、責任そのものを否定する根拠にはならない。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人…