夫及び未成年の子のある女性が他の男性と肉体関係を持ち、夫や子のもとを去つて右男性と同棲するに至つた結果、右未成年の子が日常生活において母親から愛情を注がれ、その監護、教育を受けることができなくなつたとしても、右男性の行為は、特段の事情のない限り、未成年の子に対して不法行為を構成するものではない。
夫及び未成年の子のある女性と肉体関係を持ち同棲するに至つた男性の行為と右未成年の子に対する不法行為の成否
民法709条
判旨
親権者である母親と第三者の不貞・同棲により子が愛情や監護を喪失しても、第三者が害意をもって監護を積極的に阻止する等の特段の事情がない限り、第三者の行為と子の不利益との間に相当因果関係は認められず、子に対する不法行為は成立しない。
問題の所在(論点)
父母の一方と不貞関係を持った第三者が、当該父母の一方と同棲し、その結果として未成年の子が監護・教育を受けられなくなった場合、当該第三者は子に対して不法行為責任を負うか。特に、第三者の行為と子の不利益との間に相当因果関係が認められるかが問題となる。
規範
夫及び未成年の子のある女性と肉体関係を持ち、同棲した男性の行為は、原則として子に対する不法行為(民法709条)を構成しない。母親が子に愛情を注ぎ、監護・教育を行うことは、男性と同棲するか否かにかかわらず母親自らの意思によって行い得るものである。したがって、子が事実上監護等を受けられず不利益を被ったとしても、男性が害意をもって母親の子に対する監護等を積極的に阻止するなど「特段の事情」がない限り、男性の行為と子の不利益との間に相当因果関係を認めることはできない。
重要事実
上告人(男性)は、既婚者であり未成年の子(被上告人B1〜B3)を持つDと不貞関係に陥った。Dは上告人に会うためメキシコへ渡航し、帰国後も密会を重ねた末、夫(B4)との不和を経て子の一部を連れて出奔した。その後、Dは単身でメキシコに渡り上告人と同棲するに至った。B1らは、上告人の行為により母親からの身上監護請求権や平穏な家庭生活を営む利益を侵害されたとして、損害賠償を請求した。
あてはめ
本件において、上告人がDと肉体関係を持ち同棲した結果、Dが子らのもとを去り、B1らがDからの監護・教育を受けられなくなった事実は認められる。しかし、Dが子に愛情を注ぎ監護を継続するか否かは、D自身の自由な意思に委ねられている。判決文によれば、上告人が害意をもってDによる子への監護を積極的に阻止したといった特段の事情は認定されていない。したがって、上告人の同棲行為とB1らが被った監護欠如という不利益との間には、相当因果関係があるとはいえない。
結論
上告人の行為は、特段の事情がない限り、未成年の子である被上告人B1らに対する関係で不法行為を構成しない。
実務上の射程
不貞相手の配偶者に対する不法行為(責任肯定)と、子に対する不法行為(原則否定)を峻別する。答案では、子の「家庭生活の平穏」という法益性を論じる際、本判例を引用して相当因果関係の段階で厳格に制限する構成をとる。不貞相手への請求が認められる場合でも、子固有の慰謝料請求は「監護の積極的阻止」がない限り否定すべきである。
事件番号: 昭和34(オ)565 / 裁判年月日: 昭和37年3月30日 / 結論: 棄却
不法行為の責任を判定するためにはいかなる権利が侵害されたかの権利の種別を明示することを要しない。