判旨
選挙管理委員会が作成・配布した候補者一覧表から特定の候補者を遺脱したことは、明文規定の違反がなくとも選挙の公正を著しく欠く「選挙の規定」違反にあたる。また、その後の補填措置では不十分であり、選挙の結果に異動を及ぼす虞があるとして選挙は無効とされる。
問題の所在(論点)
直接の法規に定めがない候補者一覧表の作成・配布において、候補者名を遺脱したことが「選挙の規定」違反にあたるか。また、その後の是正措置によって「選挙の結果に異動を及ぼす虞」が否定されるか。
規範
「選挙の規定」に違反する(地方自治法67条、現公職選挙法205条1項)とは、法規の明文に違反する場合だけでなく、直接の明文がなくとも選挙が公正を欠いた手続で行われ、法規の精神に背いた場合も含む。選挙の管理執行に関する法規はすべて選挙の公正を保障する目的で定められているからである。また、「選挙の結果に異動を及ぼす虞」とは、手続の瑕疵により当選の結果に異動を来す客観的な可能性があることをいう。
重要事実
昭和22年の宮崎県議会議員選挙において、上告人は通称名で適法に立候補を届け出た。しかし、県選挙管理委員会が作成し各世帯に配布した候補者一覧表において、上告人の氏名が遺脱されていた。選管は後日、未配布分への追記や回覧板による通告などの是正措置を講じたが、原審はこれによって瑕疵が治癒され、選挙結果に影響はないとして選挙無効の訴えを棄却した。
あてはめ
まず、一覧表の配布は一般選挙人に周知させる趣旨で行われるものであり、そこから特定の候補者を遺脱させることは選挙の公正を著しく欠き、選挙法の精神(規定)に違反する。次に、是正措置について、一覧表を見た全ての選挙人が回覧板をも見たとは推断できず、手続の瑕疵が治癒されたとはいえない。上告人の立候補を知らない有権者が存在し得た以上、本来上告人に投じられるべき票が他へ流れたと推測され、当選の結果に異動を及ぼす客観的な可能性があるといえる。
結論
本件一覧表からの氏名遺脱は「選挙の規定」に違反し、かつ選挙の結果に異動を及ぼす虞があるため、当該選挙は無効である。
実務上の射程
選挙無効訴訟における「規定の違反」を広く「公正を欠く手続」と捉える重要判例である。行政指導等の事実上の行為であっても、それが選挙の公正を保障する法規の精神に反すれば無効原因となり得ること、および是正措置が不完全な場合の「異動を及ぼす虞」の判断基準を示すものとして、答案上は要件認定の規範として活用する。
事件番号: 昭和23(オ)141 / 裁判年月日: 昭和24年4月12日 / 結論: 棄却
一 県会議員選挙と市会議員選挙とが同時に行われた場合でも、県会議員選挙の効力に関し異議のある者は、市選挙管理委員会にこれを申し立てるべきでなく、県選挙管理委員会に申し立てなければならない。 二 投票箱運送中に鍵が破損したため、投票が散乱した事実があつたとしても、それだけで直ちに選挙の公正が害されたものとし選挙を無効とす…
事件番号: 昭和53(行ツ)50 / 裁判年月日: 昭和53年6月23日 / 結論: 棄却
「小四」と記載された投票は、候補者Cに対する有効投票とは認められない。
事件番号: 昭和31(オ)450 / 裁判年月日: 昭和33年7月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙の無効が主張される場合において、選挙が具体的規定に違反しないことはもちろん、選挙人の自由な意思表明を確保し公明かつ適正に行われるべきという選挙法の精神に反しない限り、当該選挙は有効である。 第1 事案の概要:上告人は、本件選挙の手続等において選挙法の精神に反する事由があるとして、選挙無効を求め…