判旨
行政処分(国籍回復許可)の前提となる申請に強迫による意思表示の瑕疵があったというためには、単なる不安感の惹起では足りず、不法な害悪の告知がなされたことを要する。
問題の所在(論点)
行政処分の基礎となる申請行為に「強迫」による意思表示の取消事由が認められるか。特に、戦時下の社会情勢における当局の言動が「不法な害悪の告知」に該当するかが問題となる。
規範
意思表示の瑕疵としての強迫が成立するためには、単に相手方に畏怖の念を生じさせるだけでなく、客観的に「不法な害悪の告知」がなされたといえることを要する。当時の社会情勢や背景事情に照らし、告知された内容が当然に予想し得る事態であったり、相手方の安全のための助言と評価できる場合には、直ちに不法な害悪の告知とは断定できない。
重要事実
昭和17年当時、敵国人であった被上告人は、警察署の情報係巡査から「敵国人はスパイの嫌疑をかけられる」「旅行にも許可が必要になる」「食糧配給が停止されるかもしれない」と告げられ、早期の日本国籍回復を迫られた。被上告人はこれにより畏怖の念を生じ、国籍回復許可の申請を行った。原審はこれを強迫による意思表示の瑕疵にあたると判断し、申請の取消しに伴い国籍回復も無効になると判示した。
あてはめ
昭和17年当時の日本は敵国人への感情が悪化しており、敵国人がスパイの嫌疑を受けることや、食糧事情の窮迫により配給が制限されることは当然に予想し得る顕著な事実であった。巡査の言動は、被上告人に対し当時の客観的な情勢を告げたものにすぎず、むしろ被上告人の身の安全を思ってなされた好意による勧告とも評価し得る。したがって、単に被上告人が畏怖したという事実のみをもって、これを直ちに不法な害悪の告知、すなわち強迫行為と断ずることはできない。
結論
原判決の強迫に関する判断には法令の解釈適用の誤りがあるため、原判決を破棄し、審理を尽くさせるため本件を差し戻す。
実務上の射程
行政行為の基礎となる私人の申請行為についても民法上の意思表示の規定が類推適用され得ることを前提としつつ、強迫の認定には厳しい客観的な「不法性」が必要であることを示している。司法試験においては、公法上の意思表示の瑕疵を論ずる際、単なる主観的な畏怖ではなく、社会通念に照らした害悪告知の不当性を具体的にあてはめるべき指針となる。
事件番号: 昭和24(オ)119 / 裁判年月日: 昭和32年11月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】出生による日本国籍取得後の継続的な国籍保有を求める訴えについて、多数意見は特段の不適法を指摘せず事実認定の当否を本案判断の対象としている。これにより、現在の国籍確認の訴えは、公法上の権利義務の関係として確認の利益が認められるとの前提に立つものと解される。 第1 事案の概要:上告人は、出生によって日…
事件番号: 昭和24(オ)160 / 裁判年月日: 昭和32年12月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分の原因となる申請に自由意思を抑圧しない程度の強迫という瑕疵があっても、処分は当然無効とはならず、出訴期間を経過した後はその取消しを求めることもできない。 第1 事案の概要:上告人らは、日本国籍回復許可の申請を行い、これに基づき国籍回復許可の行政処分を受けた。その後、上告人らは当該申請が強迫…