地方公務員が労作型の不安定狭心症を発症し、入院のうえ適切な治療と安静を必要とし、不用意な運動負荷をかけると心筋こうそくに進行する危険が高い状況にあったにもかかわらず、狭心症発症の当日及び翌日も引き続き公務に従事せざるを得なかったなど判示の事実関係の下においては、狭心症発症の翌日における同人の心筋こうそくによる死亡は、地方公務員災害補償法にいう公務上の死亡に当たる。
労作型の狭心症を発症した当日及び翌日に公務に従事した地方公務員の心筋こうそくによる死亡が地方公務員災害補償法にいう公務上の死亡に当たるとされた事例
地方公務員災害補償法31条,地方公務員災害補償法45条1項
判旨
公務員が公務中に疾病を発症し、適切な治療と安静が必要な状況であったにもかかわらず、公務に従事せざるを得ず死に至った場合、公務に内在する危険が現実化したものとして、疾病と公務との間に相当因果関係が認められる。
問題の所在(論点)
公務員が公務中に基礎疾患ないし初期症状を発症し、その後の公務継続によって症状が急激に悪化し死亡した場合に、当該死亡と公務との間に相当因果関係(公務災害性)が認められるか。
規範
疾病の発症と公務との間の相当因果関係の成否は、当該疾病が公務に内在する危険の現実化によって生じたものと認められるか否かによって判断すべきである。特に、初期症状の発症後に適切な安静・加療が必要であったにもかかわらず、公務への従事を余儀なくされた結果として症状が悪化・死亡に至った場合には、その悪化の過程も含めて公務に内在する危険が現実化したものと解するのが相当である。
重要事実
地方公務員Dは、昭和55年4月16日に勤務先で労作型の不安定狭心症を発症し、病院へ搬送された。医師からは入院と安静が必要であり、負荷をかけると心筋梗塞に進行する危険が高いと診断されていたが、Dは当日の業務継続を余儀なくされ、翌17日も午前中に検査を受けた後、引き続き公務に従事した。その後、同日午後4時35分に心筋梗塞により死亡した。
あてはめ
Dは不安定狭心症を発症した際、心筋梗塞への進行を避けるために直ちに安静と治療が必要な状態にあった。しかし、職務上の要請から退院後の即時復帰や翌日の公務従事を余儀なくされており、本来確保されるべき安静を保つことが困難な状況に置かれていた。このような状況下での公務継続は、心筋梗塞を発症させる高度の危険を伴うものであり、実際にDが死に至ったのは、この公務に従事せざるを得ない状況に内在する危険が現実化したものと評価できる。
結論
Dの死亡原因となった心筋梗塞の発症と公務との間には相当因果関係があり、公務上死亡にあたる。
実務上の射程
本判決は、公務(または業務)の過重性そのものだけでなく、発症後の「安静の欠如」という事後的状況が公務に起因する場合に相当因果関係を認める論理を示している。答案上は、発症前の労働時間だけでなく、発症後の就労継続の不可避性や指示の有無を摘示し、危険の現実化という枠組みで論じる際に有用である。
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