地方公務員である保安員として高等学校の保安業務に従事していたものが午後九時より開始される右勤務に服するため自転車により出勤する途中受けた災害は、公務遂行中の災害にあたらない。
出勤途中の災害が地方公務員災害補償法一条(昭和四八年法律第七六号による改正前のもの)の公務上の災害にあたらないとされた事例
地方公務員災害補償法(昭和48年法律第76号による改正前のもの)1条
判旨
地方公務員が通常の通勤経路を経て勤務先へ向かう途中で交通事故に遭い死亡した事案において、当該災害は公務遂行中の災害には当たらない。
問題の所在(論点)
地方公務員が通常の通勤経路に従って勤務地へ向かう途中に発生した交通事故による災害は、地方公務員災害補償法上の「公務上の災害」に該当するか。
規範
「公務上の災害」(地方公務員災害補償法2条1項)といえるためには、当該災害が公務の執行と相当因果関係を有すること(公務起因性)が必要である。具体的には、職員が公務を遂行している状態(公務遂行性)にあることが前提となり、通常の通勤途上の行為は、特段の事情がない限り、任命権者の支配・管理下にある公務の執行そのものとは認められない。
重要事実
地方公務員である保安員Dは、午後9時から開始される高等学校の保安業務に従事するため、平素から通勤に使用している自転車に乗って自宅を出発した。Dが通常の通勤経路を経て勤務校へ向かっていたところ、午後8時10分ころに小型乗用車に追突され、脳挫傷により死亡した。
あてはめ
Dは勤務開始前の移動中であり、いまだ任命権者の具体的な指揮命令下に入って保安業務を開始していない。通常の通勤経路を自らの自転車で移動している状態は、一般に職員が私的領域から公的領域へと移行する準備段階にすぎず、公務遂行性が認められる特段の事情(公用車による送迎や緊急用務中の移動等)も本件では見当たらない。したがって、通勤途上の交通事故は公務の執行に付随する危険が現実化したものとはいえず、公務起因性が欠如していると評価される。
結論
本件災害は公務遂行中の災害には当たらず、公務上の災害と認められない。
実務上の射程
本判決(最一小判昭49.9.2)は、通勤災害保護制度が整備される以前の事案であり、通勤中の災害について「公務遂行性」の厳格な否定を維持している。司法試験等の答案作成においては、業務上の災害(公務災害)と通勤災害を峻別する基礎的な判例として位置づけられ、純然たる公務遂行性の有無を論じる際の基準となる。
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