公務として行われたソフトボールの競技に参加した地方公務員が右競技の終了後に急性心筋こうそくにより死亡した場合において、右競技中に短時間内に走行して塁間を一周するという心臓に多量の酸素を必要とする行為をした時から間もなく急性心筋こうそくが発症し、他にこれを発症させる有力な原因があったことが確定されていないなど判示の事情の下においては、急性心筋こうそくの発症と右競技への参加との間には相当因果関係があり、右死亡は地方公務員災害補償法にいう公務上の死亡に当たる。
公務として行われたソフトボールの競技に参加した地方公務員の急性心筋こうそくによる死亡が地方公務員災害補償法にいう公務上の死亡に当たるとされた事例
地方公務員災害補償法1条,地方公務員災害補償法31条,地方公務員災害補償法45条1項
判旨
地方公務員災害補償法上の「公務上の死亡」に当たるか否かの判断において、過激な運動等の公務遂行行為と疾病発症との間に時間的密接性があり、他に有力な原因が認められない場合には、両者の間に相当因果関係を肯定できる。
問題の所在(論点)
激しい運動を伴う公務遂行中に急性心筋梗塞を発症して死亡した場合、地方公務員災害補償法上の「公務上の死亡」と認められるための相当因果関係を肯定できるか。
規範
公務と死亡との間の相当因果関係(地方公務員災害補償法)の有無は、当該公務遂行行為が疾病発症の誘因となり得るか、及び発症の態様や時間的経過、他に原因となり得る特段の事情の有無を総合的に考慮して判断する。
重要事実
市職員D(35歳、高血圧あり)は、通常勤務後、準備運動なしに公務としてのソフトボール大会に参加した。試合中、安打での出塁後に本塁まで激走した直後、疲労を訴え、顔面蒼白となり急性心筋梗塞を発症して死亡した。急性心筋梗塞は、過激な労働や感情的興奮が誘因となることが知られている。なお、Dに冠動脈疾患の既往歴があるかは確定されておらず、他に有力な発症原因も認められなかった。
事件番号: 平成14(行ヒ)96 / 裁判年月日: 平成18年3月3日 / 結論: 破棄差戻
心臓疾患を有する地方公務員が,公務として行われたバレーボールの試合に出場した際に急性心筋こうそくを発症して死亡した場合につき,(1)同人は,力仕事に従事することは極力避けるようにしていたものの,その余の職務には通常どおり従事しており,その勤務状況は良好であったこと,(2)死亡の約3年前に行われた検査の結果,同人に狭心症…
あてはめ
Dは、準備運動を欠いた状態で、捕手という負担の大きい役割を担い、さらに短時間で塁間を一周するという心臓に多量の酸素を必要とする行為を行っている。この行為と急性心筋梗塞の発症との間には、時間的に極めて密接な関係が認められる。また、高血圧以外に発症を説明する有力な原因となる事実は確定されていない。そうであれば、本件試合への参加行為が発症の直接の原因となったと評価するのが合理的である。
結論
Dの急性心筋梗塞の発症と本件試合への参加行為との間には相当因果関係が認められ、本件死亡は公務上の死亡に当たる。
実務上の射程
基礎疾患(高血圧等)を有する職員であっても、公務における過度な負荷と発症との間に時間的近接性が認められ、かつ他原因が排斥される場合には公務災害を肯定する実務上の指針となる。急性疾患の因果関係立証において、医学的知見に基づきつつも、時間的経緯と消去法的な推認を重視した判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 平成6(行ツ)24 / 裁判年月日: 平成8年1月23日 / 結論: 棄却
地方公務員が労作型の不安定狭心症を発症し、入院のうえ適切な治療と安静を必要とし、不用意な運動負荷をかけると心筋こうそくに進行する危険が高い状況にあったにもかかわらず、狭心症発症の当日及び翌日も引き続き公務に従事せざるを得なかったなど判示の事実関係の下においては、狭心症発症の翌日における同人の心筋こうそくによる死亡は、地…
事件番号: 平成4(行ツ)70 / 裁判年月日: 平成8年3月5日 / 結論: 破棄差戻
市立小学校教諭が、午前中に出血を開始した特発性脳内出血により、当日午後行われた児童のポートボールの試合の審判として球技指導中に意識不明となって倒れ、入院後死亡した場合につき、特発性脳内出血は出血開始から血腫が拡大し意識障害に至るまでの時間がかなり掛かるものであり、同人は午前中の段階で身体的不調を訴えており、審判の交代を…
事件番号: 昭和54(行ツ)4 / 裁判年月日: 昭和54年12月6日 / 結論: 棄却
地方公務員である保安員として高等学校の保安業務に従事していたものが午後九時より開始される右勤務に服するため自転車により出勤する途中受けた災害は、公務遂行中の災害にあたらない。
事件番号: 平成5(行ツ)85 / 裁判年月日: 平成9年11月28日 / 結論: 破棄差戻
市立保育園の保母が、勤務開始後三年目には肩や背中の痛みを、その約一年半後には慢性的肩凝りや右腕等の筋肉の痛みを感ずるようになり、その状態のまま新設保育園に主任保母として着任し、保育開始準備等に集中的に当たった後一、二歳児六名を一人で担当するようになり、その年の夏季合同保育期間中に調理を担当した際右背中に激痛を感じ、その…