市立小学校教諭が、午前中に出血を開始した特発性脳内出血により、当日午後行われた児童のポートボールの試合の審判として球技指導中に意識不明となって倒れ、入院後死亡した場合につき、特発性脳内出血は出血開始から血腫が拡大し意識障害に至るまでの時間がかなり掛かるものであり、同人は午前中の段階で身体的不調を訴えており、審判の交代を同僚教諭らに申し入れたが聞き入れられず、やむなく右審判を担当したなど判示の事実関係の下においては、出血開始後の公務の遂行が特発性脳内出血の態様、程度に影響を与えた可能性、死亡に至るほどの血腫の形成を避けられた可能性等について審理判断を尽くすことなく、出血開始後の公務は右死亡と無関係であるとして右死亡の公務起因性を否定した原審の判断には違法がある。
地方公務員が午前中に出血を開始した特発性脳内出血により当日午後の公務に従事中に意識不明となって倒れ入院後死亡した場合につき死亡の公務起因性を否定した原審の判断に違法があるとされた事例
地方公務員災害補償法31条,地方公務員災害補償法45条1項
判旨
特発性脳内出血の発症が公務外であっても、体調不良を自覚しながら公務を継続せざるを得なかった事情があり、その後の公務が症状を自然的経過を超えて増悪させ、あるいは治療機会を奪って死亡に至らせた場合は、公務起因性が認められる。
問題の所在(論点)
疾患の発症(出血開始)自体が公務外の要因によるものである可能性がある場合において、発症後の公務継続が死亡等の結果を招いたときに、公務と結果との間の相当因果関係(地方公務員災害補償法45条1項)を認めることができるか。
規範
「公務上の災害」とは、公務と災害(死亡等)との間に相当因果関係があることを指す。疾患の発生(出血開始)自体が公務に起因しない場合であっても、①公務による身体的・精神的負荷が血圧変動等を通じて症状の自然的経過を超える増悪の原因となった可能性、または②公務の遂行により早期の診察・治療の機会が奪われた可能性があり、それらが公務に内在する危険の現実化といえる場合には、公務起因性が肯定される。
事件番号: 平成14(行ヒ)96 / 裁判年月日: 平成18年3月3日 / 結論: 破棄差戻
心臓疾患を有する地方公務員が,公務として行われたバレーボールの試合に出場した際に急性心筋こうそくを発症して死亡した場合につき,(1)同人は,力仕事に従事することは極力避けるようにしていたものの,その余の職務には通常どおり従事しており,その勤務状況は良好であったこと,(2)死亡の約3年前に行われた検査の結果,同人に狭心症…
重要事実
小学校教諭Dは、ポートボール大会の指導的立場にあり、当日の朝から頭痛等の身体的不調を訴えていた。Dは授業や清掃指導をこなしつつ、午後の練習試合の審判についても二度にわたり交代を申し出たが、代わりの要員がいない等の理由で聞き入れられず、やむなく審判を継続した。その最中にDは倒れ、特発性脳内出血により死亡した。原審は、出血開始が午前中であり、審判以前の公務負荷は軽微であるとして、出血開始後の公務負荷と死亡との因果関係を否定した。
あてはめ
Dの疾患である特発性脳内出血は、出血開始から意識障害に至るまで時間を要し、血圧変動が症状に影響を与える性質を持つ。Dは体調不良を自覚しながらも、指導の中心的存在であり交代が困難であったという「公務に内在する制約」により、安静や受診の機会を得られず公務を継続せざるを得なかった。そうであれば、審判等の負荷が自然的経過を超える増悪を招いた可能性や、治療遅延が重篤な血腫形成を招いた可能性を否定できず、これらは公務に内在する危険が現実化したものと評価しうる。したがって、出血開始後の公務を無関係とした原審の判断は、因果関係の存否に関する審理不尽である。
結論
出血開始後の公務遂行が症状増悪や治療機会喪失に与えた影響を審理すべきであり、公務起因性を直ちに否定した原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
基礎疾患や公務外の要因で発症した事案であっても、「公務継続の強制(やむを得ない事情)」と「増悪の可能性」をリンクさせることで因果関係を肯定する構成として重要である。過労死・過労自殺事案における「業務起因性」の判断において、発症後の業務対応を評価する際の有力な指標となる。
事件番号: 平成3(行ツ)31 / 裁判年月日: 平成6年5月16日 / 結論: 棄却
公務として行われたソフトボールの競技に参加した地方公務員が右競技の終了後に急性心筋こうそくにより死亡した場合において、右競技中に短時間内に走行して塁間を一周するという心臓に多量の酸素を必要とする行為をした時から間もなく急性心筋こうそくが発症し、他にこれを発症させる有力な原因があったことが確定されていないなど判示の事情の…
事件番号: 平成5(行ツ)85 / 裁判年月日: 平成9年11月28日 / 結論: 破棄差戻
市立保育園の保母が、勤務開始後三年目には肩や背中の痛みを、その約一年半後には慢性的肩凝りや右腕等の筋肉の痛みを感ずるようになり、その状態のまま新設保育園に主任保母として着任し、保育開始準備等に集中的に当たった後一、二歳児六名を一人で担当するようになり、その年の夏季合同保育期間中に調理を担当した際右背中に激痛を感じ、その…
事件番号: 昭和54(行ツ)4 / 裁判年月日: 昭和54年12月6日 / 結論: 棄却
地方公務員である保安員として高等学校の保安業務に従事していたものが午後九時より開始される右勤務に服するため自転車により出勤する途中受けた災害は、公務遂行中の災害にあたらない。