市立保育園の保母が、勤務開始後三年目には肩や背中の痛みを、その約一年半後には慢性的肩凝りや右腕等の筋肉の痛みを感ずるようになり、その状態のまま新設保育園に主任保母として着任し、保育開始準備等に集中的に当たった後一、二歳児六名を一人で担当するようになり、その年の夏季合同保育期間中に調理を担当した際右背中に激痛を感じ、その翌月頸肩腕症候群と診断されて通院を開始したが、その後も、業務負担が重くなったことはあっても軽減されることはなく、症状も若干の起伏を伴いながら続いたなど判示の事実関係の下においては、他に明らかに原因となった要因が認められない限り、右保母の業務と右頸肩腕症候群との間の因果関係を否定することは、経験則に反する。
市立保育園の保母の業務と同人に発症した頸肩腕症候群との間の因果関係を否定したことが経験則に反するとされた事例
民法415条,民訴法185条
判旨
訴訟上の因果関係の立証は、特定の事実が特定の結果を招来した関係を是認し得る「高度の蓋然性」を証明すれば足りる。保育業務による頸肩腕症候群の発症についても、症状の推移と業務の対応関係や業務の性質に照らし、他に明らかな原因がない限り、経験則上、因果関係を肯定するのが相当である。
問題の所在(論点)
民法709条または安全配慮義務違反(債務不履行)に基づく損害賠償請求において、業務と疾患(頸肩腕症候群)との間の相当因果関係を認めるための立証の程度、および保母の業務の特殊性を踏まえた判断枠組みが問題となる。
規範
訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであれば足りる。
重要事実
事件番号: 平成14(行ヒ)96 / 裁判年月日: 平成18年3月3日 / 結論: 破棄差戻
心臓疾患を有する地方公務員が,公務として行われたバレーボールの試合に出場した際に急性心筋こうそくを発症して死亡した場合につき,(1)同人は,力仕事に従事することは極力避けるようにしていたものの,その余の職務には通常どおり従事しており,その勤務状況は良好であったこと,(2)死亡の約3年前に行われた検査の結果,同人に狭心症…
横浜市立保育園の保母(上告人)が、長年の乳幼児の抱き上げや不自然な姿勢での作業、新設園での主任業務、調理作業等の多忙な業務に従事する中で頸肩腕症候群を発症した。原審は、保育業務が身体の特定部位に過大な負担を負わせる性質のものとはいえず、医学的解明も不十分であるとして、業務と発症の相当因果関係を否定した。
あてはめ
保母の業務は、精神的緊張を伴い、乳幼児の抱き上げや不自然な姿勢での作業が多く、頸肩腕部等にかなりの負担がかかる性質を有している。上告人の症状は、出産前からの前駆症状、新設園での過重な負担、調理作業中の激痛、その後の診断という形で、業務内容・量と時間的に密接に対応して推移している。他に明らかな原因(個人的因子等)が認められない以上、本件業務と疾患の間の因果関係には高度の蓋然性が認められる。
結論
業務と疾患の間に相当因果関係が認められるとした。原審が因果関係を否定した判断には、因果関係に関する法則の解釈適用の誤り、経験則違背があるため、原判決を破棄し差し戻した。
実務上の射程
医学的機序が完全には解明されていない現代型疾患(職業病)においても、立証責任の程度を「高度の蓋然性」に留め、症状の推移と業務態様との時間的・内容的対応関係から因果関係を推認できることを示した。実務上、公害訴訟や労災訴訟における因果関係の立証基準として広く引用されるべき重要判例である。
事件番号: 平成4(行ツ)70 / 裁判年月日: 平成8年3月5日 / 結論: 破棄差戻
市立小学校教諭が、午前中に出血を開始した特発性脳内出血により、当日午後行われた児童のポートボールの試合の審判として球技指導中に意識不明となって倒れ、入院後死亡した場合につき、特発性脳内出血は出血開始から血腫が拡大し意識障害に至るまでの時間がかなり掛かるものであり、同人は午前中の段階で身体的不調を訴えており、審判の交代を…
事件番号: 平成10(行ツ)128等 / 裁判年月日: 平成12年7月7日
【結論(判旨の要点)】公務員に発生した傷害が、職務に関連し、かつ公務に起因するものと認められる場合には、当該傷害に公務起因性が認められる。 第1 事案の概要:上告人(国側)に対し、被上告人(公務員)が公務中に発生した傷害について公務起因性の有無を争った事案。原審は、被上告人に生じた本件傷害について、具体的な発生状況等の…