心臓疾患を有する地方公務員が,公務として行われたバレーボールの試合に出場した際に急性心筋こうそくを発症して死亡した場合につき,(1)同人は,力仕事に従事することは極力避けるようにしていたものの,その余の職務には通常どおり従事しており,その勤務状況は良好であったこと,(2)死亡の約3年前に行われた検査の結果,同人に狭心症状等は認められず,日常生活,事務労働,車の運転等の中程度の労働まで許容することができるとされたこと,(3)死亡前の約6年間に同人が狭心症状等を起こした旨の記録は存在しないことなど判示の事実関係の下においては,同人の心臓疾患が確たる発症因子がなくてもその自然の経過により心筋こうそくを発症させる寸前にまでは増悪していなかったかどうかについて十分に審理することなく,同人の死亡とバレーボールの試合に出場したこととの間の相当因果関係を否定した原審の判断には,違法がある。
心臓疾患を有する地方公務員が公務として行われたバレーボールの試合に出場した際に急性心筋こうそくを発症して死亡した場合につき同人の死亡とバレーボールの試合に出場したこととの間の相当因果関係を否定した原審の判断に違法があるとされた事例
地方公務員災害補償法31条,地方公務員災害補償法45条1項
判旨
地方公務員災害補償法上の公務災害認定において、公務の過重性が基礎疾患をその自然の経過を超えて急激に増悪させ、発症に至らせたと認められる場合には、公務と災害との間に相当因果関係が認められる。
問題の所在(論点)
地方公務員災害補償法上の「公務上の災害」にあたるか。具体的には、既存の基礎疾患がある場合において、公務が発症の原因となったといえるか(相当因果関係の成否)。
規範
公務と災害との間の相当因果関係を認めるためには、公務が、疾病の主たる原因である基礎疾患等を、その自然の経過を超えて急激に増悪させ、発症に至らせる程度に過重なものであったことを要する。この過重性の判断にあたっては、発症直前の状況のみならず、発症に至るまでの業務内容、労働時間、精神的・肉体的負荷を総合的に考慮すべきである。
重要事実
教育委員会の職員であった被上告人(X)は、高脂血症等の基礎疾患を有していた。Xは、地方公務員等スポーツレクリエーション祭の準備・運営業務に従事しており、大会直前には長時間の超過勤務や深夜におよぶ業務を行っていた。大会当日も早朝から従事し、審判等の過重な業務を行っていたところ、心筋梗塞を発症した。原審は、Xの基礎疾患が自然経過として相当程度進行していたとして公務災害を否定したが、上告審では発症直前の業務負荷が検討対象となった。
あてはめ
Xは、発症前1ヶ月間に100時間を超える超過勤務を行っており、業務による疲労や精神的緊張が蓄積していた。大会当日の業務も、基礎疾患を持つ者にとって肉体的・精神的負担が著しいものであったといえる。原審は血清コレステロール値等の推移のみから「自然経過による増悪」と判断したが、これら過重な業務実態を適正に評価すれば、公務が基礎疾患を自然経過を超えて急激に増悪させ、心筋梗塞を発症させた有力な原因になったと評価できる余地がある。
結論
公務と発症との間の相当因果関係を否定した原審の判断には、公務の過重性に関する評価に過誤がある。本件を原審に差し戻す。
実務上の射程
脳・心臓疾患の公務災害(労災)認定における「業務の過重性」の判断枠組みを示すものである。基礎疾患がある場合でも、発症前の労働時間や業務密度が客観的に過重であれば、因果関係が肯定されやすくなる。答案上は、時系列に沿った業務負担の増大を拾い、「自然の経過を超えた増悪」といえるかを論じる際に本判例の規範を用いる。
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