候補者A弘道の亡父A弘がその地方において著名な政治家であり、一方、右候補者は亡父の死亡後にその後継者として本格的な政治活動を開始したなど判示の事情の下においては、右A弘の氏名に合致する記載のある投票は、右両名のいずれを記載したか不明なものとして、無効である。
候補者の氏名に近似するが候補者の亡父でその地方において著名な政治家であった者の氏名に合致する記載のある投票を無効とした事例
公職選挙法67条,公職選挙法68条1項
判旨
候補者でない著名な亡父と、その地盤を継いだ候補者との間で誤認・混同が生じる客観的な状況下では、亡父の名と同一の記載がある投票について、候補者に対する有効投票と認めることはできない。
問題の所在(論点)
候補者(子)と、候補者でない著名な亡父との氏名が類似・同一である場合において、亡父の名が記された投票を、公職選挙法に基づき候補者に対する有効投票として受理できるか。
規範
公職選挙法上の有効投票と認められるためには、その記載が特定の候補者を指し示すものであることが合理的に推認できなければならない。候補者の氏名を誤記したものか、あるいは候補者でない者を指向したものか判別し難い場合には、これを候補者に対する有効投票と認めることはできない。
重要事実
上告人の亡父Aは、県議会議員を5期務め、死亡当時は県議会議長であった地元の著名人であった。上告人は亡父の死後、後継者として政治活動を開始したが、亡父と比較して知名度は低かった。本件選挙において「Aひろし(亡父と同名)」と読み取れる投票がなされたが、亡父の死亡・葬儀が報道されていたとしても、有権者が依然として亡父の生存を誤信し、亡父に投票する可能性が否定できない客観的状況があった。
あてはめ
本件では、亡父が極めて著名であり、後継者である上告人の知名度が相対的に低かったことから、有権者が亡父を候補者と誤認・混同する客観的情況が存在したといえる。この状況下において、「Aひろし」と記された投票は、単なる上告人の氏名の書き損じ(誤記)であるのか、あるいは既に死亡している亡父を指向してなされたものであるのか、そのいずれとも断定することが困難である。したがって、当該投票が上告人に対するものであると合理的に推認することはできないと評価される。
結論
亡父と候補者を誤認・混同する客観的情況がある以上、亡父を指向した可能性を排除できないため、当該投票を上告人に対する有効投票と認めることはできない。
実務上の射程
本判例は、いわゆる「混同投票」の有効性に関する判断基準を示している。答案上は、他事象(死亡や引退)によって候補者でない者が有権者の意識に強く残っている場合、単なる誤記として救済するのではなく、他者を指向した可能性との比較で有効性を厳格に判断する際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和59(行ツ)252 / 裁判年月日: 昭和59年9月27日 / 結論: 棄却
D登市という氏名の候補者がいる町議会議員選挙において、D東一と記載された投票は、D東一なる人物が町内に実在し、かつ、郷土史研究家としてある程度名の知られた者であつても、同人が選挙当時八六歳の高齢であり、約三〇年前に同町教育委員会の委員に当選して約六か月間在職したことがあつたほかは、格別政治的活動をしたことがなく、また、…
事件番号: 平成4(行ツ)175 / 裁判年月日: 平成5年2月18日 / 結論: 棄却
候補者に大場D夫と小林D宏とがある場合に、「大場D宏」と記載された投票は、大場D夫に対する有効投票と認めるべきである。