D登市という氏名の候補者がいる町議会議員選挙において、D東一と記載された投票は、D東一なる人物が町内に実在し、かつ、郷土史研究家としてある程度名の知られた者であつても、同人が選挙当時八六歳の高齢であり、約三〇年前に同町教育委員会の委員に当選して約六か月間在職したことがあつたほかは、格別政治的活動をしたことがなく、また、右候補者の氏名を「D東一」と表記するものと誤信していた選挙人のいることも推測される事情があるときは、候補者D登市に対する有効投票と認めるべきである。
D登市という氏名の候補者がいる町議会議員選挙において町内で名の知られたD東一なる実在人と同一の氏名の記載された投票が右候補者に対する有効投票と認められた事例
公職選挙法68条1項
判旨
選挙区内に実在する他人の氏名と同一の記載がある投票であっても、当該他人が政治的活動を行っておらず候補者の氏名の誤認と推測される事情があれば、候補者への有効投票と認められる。
問題の所在(論点)
公職選挙法上の自書式投票において、候補者以外の実在人と同一の氏名が記載された投票につき、当該実在人を指向した無効投票とすべきか、それとも候補者への有効投票(混同投票)として受理すべきか。
規範
自書式投票において、候補者以外の実在人と同一の氏名が記載された場合であっても、当該実在人の知名度、経歴、政治活動の有無、及び選挙人が候補者の氏名を当該記載のように誤認する可能性などの諸事情を総合考慮し、実在人を指向したものと推認できないときは、候補者に対する有効投票と解するのが相当である。
重要事実
町議会議員選挙において、候補者「D登市」に対し「D東一」と記載された投票がなされた。選挙区内には同姓同名の郷土史研究家「D東一」が実在していた。この実在人は86歳の高齢で、約30年前に短期間教育委員を務めた以外に政治的活動はなく、終始文化活動に従事していた。一方で、選挙人の中に候補者の氏名を「D東一」と誤認していた者がいると推測される事情が存在した。
事件番号: 昭和33(オ)63 / 裁判年月日: 昭和33年4月8日 / 結論: 棄却
「A兼光」と記載された投票は、候補者A左文太に対する有効投票と解することはできない。
あてはめ
実在するD東一は、郷土史家としての知名度はあるものの、30年前の短期間の公職経験を除き町政に関する政治的活動は皆無である。このような状況下では、選挙人があえて政治活動のない高齢の文化人を指向して投票したとは考えにくい。むしろ、候補者D登市の氏名を「D東一」と表記するものと誤認していたと推測する方が合理的である。したがって、本件記載は実在人を指向したものとは推認できない。
結論
「D東一」との記載は、候補者D登市に対する有効投票と認めるのが相当である。
実務上の射程
記号式投票でない自書式投票における「混同投票」の有効性を判断する際のリーディングケースである。実在する他人が存在する場合でも、形式的に無効とするのではなく、当該他人の政治的実質や誤認の蓋然性から「真意」を汲み取るべきとする判断枠組みは、現代の選挙無効訴訟や当選無効訴訟の答案でも活用できる。
事件番号: 平成5(行ツ)102 / 裁判年月日: 平成5年7月19日 / 結論: 棄却
候補者中に南里C、森D及び樋口Eがある場合に、「なり(原文は手書き)」と記載された投票は、右記載が「なり」であり、「なんり」と記載すべきところを「ん」を脱落させた誤記として、南里Cに対する有効投票と解すべきである。
事件番号: 昭和32(オ)870 / 裁判年月日: 昭和32年12月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】「小D」と記載された投票が、特定の候補者である「木D」の誤記であると認められる場合には、当該候補者の有効投票として取り扱うべきである。 第1 事案の概要:選挙における投票において、投票用紙に「小D」と記載されたものがあった。一方で、本件選挙の候補者には「木D」という氏名の者が存在していた。原審はこ…
事件番号: 昭和32(オ)352 / 裁判年月日: 昭和32年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】「クマダ」と記載された投票について、被上告人を指すものと解される事情がある場合には、公職選挙法68条等の無効事由に該当せず、有効な投票として扱うことができる。 第1 事案の概要:選挙において「クマダ」と記載された投票が1票存在した。この投票が公職選挙法68条(現行法の無効事由)に該当し、誰を指すか…