詩人の著作物を収録し、生存中にその承諾の下に出版された編集著作物について、詩人以外の者が編集に関与したとしても、収録する詩等の範囲及び掲載順の確定、題名の決定等を詩人自らが行い、関与者は詩人の意向に全面的に従っていたなど判示の事実関係の下においては、関与者に当該編集著作物の編集著作権があるとはいえない。
詩人の著作物を収録し生存中にその承諾の下に出版された編集著作物の編集に関与した者の編集著作権が否定された事例
旧著作権法(明治32年法律第39号)14条,著作権法12条
判旨
編集著作物の創作主体は、素材の選択や配列を最終的に確定した者であり、出版者の進言や企画案に留まる関与は編集著作権の帰属を左右しない。本件では、著作者自身が収録作品の選定および制作年代順の配列を検討・確定しているため、著作者に編集著作権が帰属する。
問題の所在(論点)
編集著作権の帰属主体を決定するにあたり、出版業者が素材の提案や企画に関与した場合でも、著作者本人が素材の選択・配列を最終的に確定していれば、著作者が「編集した者」にあたるか。
規範
編集著作物(著作権法12条1項)の創作性は、素材の選択又は配列における創作的な表現に認められる。したがって、編集著作権の帰属主体は、単なる企画や資料提供に留まらず、素材の選択又は配列を具体的に決定し、精神的活動を通じて表現を確定した者である。著作者自身の承諾の下で出版された編集著作物において、第三者の関与があっても、著作者自らが編集に携わったことが推認されるのが原則である。
重要事実
詩人・高村光太郎の詩集「智惠子抄」の編集著作権が、光太郎の相続人と出版業者Dの承継人のいずれに帰属するかが争われた。Dは、光太郎に対し収録候補とする詩等の案(第一次案)を提示して編集を進言し、追加収録も提案した。しかし、最終的な収録作品の取捨選択および「智惠子抄」という題名の決定は光太郎が行い、配列についても、Dの案が雑誌発行順等であったのに対し、光太郎は制作年代順という独自の原則に基づき修正・確定した。また、Dは光太郎による修正等に全面的に従っていた。
事件番号: 平成10(受)332 / 裁判年月日: 平成12年9月7日 / 結論: 棄却
印刷用書体が著作権法二条一項一号にいう著作物に該当するためには、従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性及びそれ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならない。
あてはめ
Dによる詩等の案の提示は、編集著作の観点からは「企画案ないし構想の域にとどまる」ものであった。これに対し、光太郎は自ら全作品を対象として綿密に検討した上で収録作品を確定し、配列についてもDの案を修正して制作年代順という独自の体系を採用している。このように、素材の選択と配列の双方において最終的な決定権を行使し、具体的な表現を確定させたのは光太郎であると評価できる。Dが光太郎の意向に全面的に従っていた事実も、光太郎が主導的な創作主体であることを裏付けている。
結論
本件編集著作物を編集したのは光太郎であり、その編集著作権は光太郎(およびその相続人)に帰属する。
実務上の射程
編集著作物の創作主体性が争われる場面でのメルクマールとして、①最終的な選択・配列の確定権限、②素材の修正における主導性、③企画者の提案が「企画・構想」の域を出るか否か、という視点を提示している。共同著作(2条1項12号)や職務著作(15条)の成否が問題となる場合でも、具体的な表現決定への寄与度を測る指標として活用できる。
事件番号: 平成4(オ)797 / 裁判年月日: 平成5年3月30日
【結論(判旨の要点)】公正証書遺言が作成された後に、遺言者が自筆で追記等の修正を行った場合であっても、それが遺言者の真意に基づくものであり、遺言の同一性を損なわない範囲の修正であれば、遺言全体の効力は否定されない。 第1 事案の概要:本件では、当初公正証書の形式で遺言が作成されたが、その後、遺言者本人がその生存中に自ら…
事件番号: 平成9(オ)2117 / 裁判年月日: 平成10年3月24日 / 結論: 破棄差戻
民法九〇三条一項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、同法一〇三〇条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の…
事件番号: 昭和27(オ)592 / 裁判年月日: 昭和29年8月31日 / 結論: 棄却
本人が代理人に対し、甲名義をもつて金員を借り受けることを委任し、これに基き代理人が甲のためにすることを示して第三者から金員を借り受けたときは、右消費貸借は本人に対して効力を生ずる。
事件番号: 昭和56(オ)767 / 裁判年月日: 昭和57年10月19日 / 結論: 棄却
民法七二四条所定の三年の時効期間の計算においては、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知つた時が午前零時でない限り、時効期間の初日を算入すべきではない。