使用者が企業秩序維持のために従業員の法的利益を侵害する性質を有する指導監督上の措置を執り、これによって従業員が損害を被った場合であっても、使用者が右措置を執ったことを相当とすべき根拠事実の存在が証明されるか、又は使用者において右のような事実があると判断したことに相当の理由があると認められるときには、不法行為は成立しない。
使用者が企業秩序維持のために従業員の法的利益を侵害する性質を有する指導監督上の措置を執った場合におけるその根拠事実の証明と不法行為の成否
民法709条,民訴法第2編第3章第1節総則
判旨
就業規則に規定のない「厳重注意」であっても、労働者の法的利益を侵害する性質を有する場合には、根拠事実が存在するか、その存在を信じたことに相当の理由がなければ、不法行為(民法709条)を構成する。
問題の所在(論点)
就業規則上の懲戒処分に当たらない「厳重注意」等の事実上の措置について、その発令の根拠となる事実が真偽不明である場合、不法行為責任を免れるための要件をいかに解すべきか。
規範
使用者は企業秩序維持のために必要な措置を講じ得るが、法的利益を侵害する性質の措置については、相当な根拠・理由なくこれを行うことは許されない。具体的には、(1)措置を執ったことを相当とすべき根拠事実の存在が証明されるか、又は(2)使用者において右事実があると判断したことに相当の理由が認められない限り、不法行為が成立する。
重要事実
鉄道会社(被上告人)の従業員A(上告人)は、組合員らによる事務室への無断立ち入り及び退去拒否(本件行為)に加わったことを理由に、運行部長から書面による「厳重注意」を受けた。この厳重注意は、就業規則に規定はないものの、将来を戒める制裁的行為として人事・社員管理台帳に記載される性質のものであった。Aは本件行為に参加していないと主張し、名誉感情侵害による損害賠償を求めたが、原審は参加の有無が真偽不明であることを理由に請求を棄却した。
あてはめ
本件厳重注意は、法的効果こそ生じないが、人事管理台帳等に記載され、職場における信用評価を低下させ名誉感情を害するものであり、法的利益を侵害する性質を有する。このような性質の措置については、挙証責任の分配として、事実が不明であっても直ちに請求を排斥すべきではない。本件では、Aが本件行為に参加した事実の証明がない以上、次に「使用者がAの参加を判断したことに相当の理由があったか」を審理すべきであり、これを尽くさずに不法行為の成立を否定した原審の判断は誤りである。
結論
本件厳重注意が不法行為を構成するか否かの判断に際し、根拠事実が真偽不明であっても、使用者側に相当の理由が認められない場合は不法行為が成立する。審理不尽のため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
懲戒処分に至らない事実上の指導・訓戒等であっても、人事記録に残るなど社会的評価に影響を与えるものは、不法行為の対象となる法的利益侵害が認められやすい。答案上は、不法行為の成立要件における「違法性」や「過失」の判断枠組みとして、事実の存否だけでなく「判断の相当性」にまで言及する際に活用できる。
事件番号: 平成8(オ)1026 / 裁判年月日: 平成12年3月31日 / 結論: 破棄差戻
事業遂行に必要な技術者の養成と能力向上を図るため、各職場の代表者を参加させて、一箇月に満たない比較的短期間に集中的に高度な知識、技能を修得させ、これを職場に持ち帰らせることによって、各職場全体の業務の改善、向上に資することを目的として行われた訓練の期間中に、訓練に参加している労働者から年次有給休暇が請求されたときは、使…
事件番号: 昭和39(行ツ)28 / 裁判年月日: 昭和39年10月13日 / 結論: 棄却
人事委員会に不利益処分の審査請求をした手続の当事者であつても、同委員会に対し、その議事録の閲覧を請求する権利が与えられているものではない。
事件番号: 平成26(受)1310 / 裁判年月日: 平成27年2月26日 / 結論: 破棄自判
会社の管理職である男性従業員2名が同一部署内で勤務していた女性従業員らに対してそれぞれ職場において行った性的な内容の発言等によるセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた出勤停止の各懲戒処分は,次の(1)~(4)など判示の事情の下では,懲戒権を濫用したものとはいえず,有効である。 (1) 上記男性従業員らは,①うち…