1 学校法人が,その設置,運営する大学に勤務する教授に対し,同教授の地元新聞紙上における発言等を理由として戒告処分をした場合において,上記発言が新聞紙上に掲載されても上記学校法人の社会的評価の低下毀損を生じさせるとは認め難いなど判示の事情の下では,上記戒告処分は懲戒権を濫用するものとして無効である。 2 学校法人が,その設置,運営する大学に勤務する教授に対し,教授会の決議を受けて,教授会への出席その他の教育諸活動をやめるよう求める要請をした場合において,上記学校法人の規程上,業務命令権の行使が教授会等の機関に専権的に委任されているとは認められないなど判示の事情の下では,上記要請は上記学校法人が使用者としての立場から上記教授に発した業務命令に当たり,その無効確認を求める訴えは適法である。 3 学校法人が,その設置,運営する大学に勤務する教授に対し,業務命令として,教授会への出席その他の教育諸活動をやめるよう求める要請をした場合において,それが制裁的意図に基づく差別的取扱いとみられてもやむを得ない行為であるなど判示の事情の下では,上記要請は,業務上の必要性を欠き,社会通念上著しく合理性を欠くものであって,業務命令権を濫用するものとして無効である。
1 学校法人がその設置,運営する大学に勤務する教授に対し同教授の地元新聞紙上における発言等を理由としてした戒告処分が無効とされた事例 2 学校法人がその設置,運営する大学に勤務する教授に対し教授会への出席その他の教育諸活動をやめるよう求めた要請が業務命令に当たるとして,その無効確認を求める訴えが適法とされた事例 3 学校法人がその設置,運営する大学に勤務する教授に対し業務命令として教授会への出席その他の教育諸活動をやめるよう求めた要請が無効とされた事例
(1につき)労働基準法89条 (2,3につき)民法623条,労働基準法第2章 労働契約 (2につき)民訴法134条
判旨
大学教授の新聞発言や講義方法を理由とする戒告処分は、大学の社会的評価を低下させるとはいえず、合理的理由を欠き懲戒権の濫用として無効である。また、業務上の必要性がないにもかかわらず制裁的意図で教授会出席や教育活動を禁じる命令も、業務命令権の濫用として無効であり、それに関与した者の不法行為責任も認められる。
問題の所在(論点)
1. 特定の歴史観に基づく新聞発言や講義方法が、就業規則上の服務規律違反(品格保持義務違反等)にあたり、戒告処分の合理的理由となるか。2. 教授会出席や教育活動の停止を求める「要請」が、使用者の業務命令にあたるか、またその有効性。3. 不適切な人物と判断した審査委員会や教授会の決議に関与した者の不法行為責任。
規範
事件番号: 昭和58(行ツ)127 / 裁判年月日: 昭和63年1月21日 / 結論: 棄却
教職員組合が教職員の定数確保、昇級・昇格の完全実施等の要求を掲げていつせい休暇闘争を行つたが、当時県当局が実施した定数削減、定期昇級・昇格発令延伸等は極度の財政逼迫状態のもとでやむなくとられた措置であり、また、右休暇闘争は三日間にわたり三日間で県下小・中学校の教職員の延べ約八割七分に及ぶ約五二〇〇名が参加して行われたも…
1. 懲戒処分は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認できない場合は、懲戒権の濫用として無効となる。2. 使用者は業務命令権を有するが、業務上の必要性を欠き、制裁的意図に基づく差別的取扱いなど、社会通念上著しく合理性を欠く場合は、業務命令権の濫用として無効となる。3. 懲戒に値する事由がないにもかかわらず不適切な人物として辞職を促し、排除する決議に関与する行為は、名誉毀損等の不法行為を構成し得る。
重要事実
大学教授であるXが、地元紙で人権センターの展示内容を批判する等の発言(本件発言)を行った。大学側は、本件発言が大学に迷惑をかけたとしてXに辞職勧奨したが、Xが拒否したため、本件発言や一部の講義方法(特定の映画鑑賞への加点等)を理由に戒告処分を下した。さらに、理事長名で教授会への出席や教育活動の中止を求める要請(本件要請)を行い、学園史の英訳業務に従事させる等の措置をとった。これに対しXが処分の無効確認と損害賠償を求めた事案。
あてはめ
1. 本件発言は、特定の歴史観を強制すべきでないという個人の意見表明にすぎず、大学の社会的評価を低下させるものではない。講義方法についても、教育活動の一環としての性質を考慮すれば、直ちに懲戒事由に該当するとは認め難い。よって、戒告処分は合理的理由を欠き、懲戒権の濫用となる。2. 本件要請は理事長名で発せられ自粛を求める以上の性質を有するため、使用者による業務命令にあたる。そして、懲戒事由がないにもかかわらず執拗な辞職勧奨の末に行われ、教授の基本的職責を奪うものであり、業務上の必要性がない制裁的意図による差別的取扱いであるから、業務命令権の濫用として無効である。3. 懲戒事由がないにもかかわらず辞職適当との結論を出し、排除決議に加わった行為は名誉毀損にあたる。
結論
本件戒告処分および本件要請(業務命令)はいずれも権利の濫用として無効である。また、これに関与した大学関係者の不法行為に基づく損害賠償請求も認められる。
実務上の射程
学問の自由(憲法23条)が背景にある私立大学の教員に対する懲戒・業務命令の限界を示したもの。特に「業務命令」の認定において、形式的な文言(「お辞め下さい」等)ではなく実質的な制裁性に着目している点、および業務上の必要性を厳格に判断している点が重要である。
事件番号: 平成4(オ)1011 / 裁判年月日: 平成8年3月28日 / 結論: その他
使用者が企業秩序維持のために従業員の法的利益を侵害する性質を有する指導監督上の措置を執り、これによって従業員が損害を被った場合であっても、使用者が右措置を執ったことを相当とすべき根拠事実の存在が証明されるか、又は使用者において右のような事実があると判断したことに相当の理由があると認められるときには、不法行為は成立しない…
事件番号: 昭和39(行ツ)28 / 裁判年月日: 昭和39年10月13日 / 結論: 棄却
人事委員会に不利益処分の審査請求をした手続の当事者であつても、同委員会に対し、その議事録の閲覧を請求する権利が与えられているものではない。
事件番号: 平成26(受)1310 / 裁判年月日: 平成27年2月26日 / 結論: 破棄自判
会社の管理職である男性従業員2名が同一部署内で勤務していた女性従業員らに対してそれぞれ職場において行った性的な内容の発言等によるセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた出勤停止の各懲戒処分は,次の(1)~(4)など判示の事情の下では,懲戒権を濫用したものとはいえず,有効である。 (1) 上記男性従業員らは,①うち…