特許に係る発明が先願に係る発明と同一であることを理由に特許を無効とした審決において、先願についてした明細書の補正がその要旨を変更するものであり、その特許出願日は特許に係る発明の特許出願日よりも後の日に繰り下がる結果、先願発明は本件発明の先願に係るものとはいえないことになるか否かが明示的に判断されなかったとしても、右の要旨変更の有無は審決取消訴訟で審理判断することができる。
特許発明が先願発明と同一であるとした特許無効審決において先願発明に要旨変更があったため先願とはいえないことになるか否かが明示的に判断されなかった場合と審決取消訴訟における右要旨変更の有無の審理判断の可否
特許法39条1項,特許法40条,特許法123条
判旨
後願発明の構成が先願発明の構成に包含される場合、特段の事情がない限り、両者は同一の発明(特許法39条1項)にあたると解すべきである。また、後願発明に特有の記載が単なる作用効果の記述にすぎない場合は、発明を特定するための構成要素とは認められない。
問題の所在(論点)
特許法39条1項(先願主義)における発明の同一性判断において、後願発明の構成が先願発明の構成に包含される場合の判断手法、および特許請求の範囲に記載された「作用」的文言の取り扱いが問題となった。
規範
1. 複数の発明が同一であるか否かは、特許請求の範囲の記載に基づき、発明の構成に欠くことができない事項(発明の特定事項)を対比して判断する。2. 後願発明の構成が先願発明の構成に包含される関係にある場合、後願発明が先願発明との同一性を否定し得る「特段の事情」がない限り、両者は同一の発明と解する。3. 発明の作用を述べたにすぎない文言は、発明の構成に欠くことができない事項には該当しない。
重要事実
本件発明(後願)は、サーボ装置や制御装置等を備えた数値制御通電加工装置であり、特許請求の範囲に「短絡事故に際し加工材または加工電極が前記追跡軌跡を逆方向にたどり得る(逆方向軌跡の構成)」との記載を有していた。一方、先願発明は、同一の装置構成を有するが、逆方向軌跡の構成については明細書には記載があるものの、特許請求の範囲には記載がなかった。特許庁は両者を同一と認め、本件特許を無効(特許法39条1項違反等)としたが、原審は「逆方向軌跡の構成」の記載の有無のみを重視し、同一性を否定したため、上告された。
事件番号: 平成3(行ツ)98 / 裁判年月日: 平成5年3月30日
【結論(判旨の要点)】特許法上の新規性等における「発明の同一性」の判断において、出願書類の要旨変更に当たらない範囲内での補正により技術的構成が具体化された場合であっても、それが当業者が当然に採用する程度の周知・慣用技術の付加にすぎず、新たな効果を奏するものでない限り、発明の同一性は失われない。 第1 事案の概要:本件発…
あてはめ
1. 先願発明の「短絡に際してテープを逆方向に移動させる制御装置」という構成は、後願発明の「逆方向軌跡の構成」を論理的に包含している。2. 被上告人(特許権者)は、この包含関係があるにもかかわらず、同一性を否定すべき「特段の事情」を主張立証していない。3. 先願の審査過程で「逆方向軌跡」の文言が「単なる所望の動作(作用)にすぎない」として削除された経緯に照らせば、当該文言は発明の構成に欠くことができない事項ではない可能性がある。4. 特に線状電極を用いる態様では、先願の構成を採用すれば必然的に逆方向軌跡をたどることになり、両者の構成は実質的に同一であるといえる。
結論
本件発明は先願発明に包含されるものであり、特段の事情がない以上、特許法39条1項にいう同一の発明に該当する。したがって、同一性を否定した原判決には法令解釈の誤りがある。
実務上の射程
本判決は、発明の同一性(29条の2、39条)の判断において「包含関係」にある場合は原則として同一とみなす「下位概念/上位概念」の法理を示唆している。答案上は、請求項の文言を対比する際、一見異なる文言があっても、それが単なる作用効果の記述か、あるいは包含関係にあるかを検討し、実質的同一性を論じる際の基準として活用すべきである。
事件番号: 昭和26(オ)378 / 裁判年月日: 昭和28年10月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】二つの発明が同一であるか否かは、発明構成の主要点において相一致するか否かにより判断されるべきであり、細部の相違があっても主要点が共通すれば同一発明と認められる。 第1 事案の概要:上告人の有する特許(第173800号)と、被上告人の有する特許(第172705号)の同一性が争われた事案である。原審は…