省略
「多重多段時分割通信方式」に関する発明と「多重通信装置」に関する先願発明とを旧特許法(大正一〇年法律第九六号)八条にいう同一発明とはいえないとした事例
旧特許法(大正10年法律第96号)8条
判旨
発明の同一性判断において、特許請求の範囲の記載だけでなく明細書の発明の詳細な説明を参酌すべきであり、先願の限定要件を不必要とした後願は、実施態様が重複し得るとしても技術的思想の構成が異なるため別個の発明と解される。
問題の所在(論点)
特許法上の発明の同一性判断において、特許請求の範囲のみならず発明の詳細な説明を参酌できるか。また、先願の構成上の限定を不要とした後願が、実施態様において先願と重複する場合に、同一発明(旧特許法8条、現行法39条等)にあたるか。
規範
発明の同一性を判断するにあたっては、特許請求の範囲の記載のみを形式的に対比するのではなく、発明の詳細な説明の記載事項をも勘案して、技術的思想としての構成要件を実質的に把握すべきである。また、先願発明に付された特定の限定を不必要とする点に後願発明の別個の技術的思想が見出せる場合、両者の実施態様が重複することがあっても、直ちに同一の発明とはみなされない。
重要事実
本願発明(後願)は、多重多段時分割通信方式において同期信号の挿入方法を工夫したもので、伝送手段に主搬送波を必須としない構成であった。対して引用発明(先願)は、周波数分割と時分割を組み合わせ、必ず主搬送波を用いる構成であった。特許庁および原審は、引用発明が「必ず主搬送波を用いる」という限定を持つのに対し、本願発明はそのような限定を持たない点において構成要件が異なると判断。これに対し上告人は、実施態様において両者が重複する以上、本願発明は引用発明を包含する同一発明であると主張して争った。
あてはめ
まず、原審が明細書の記載を参酌して発明の要旨を把握した手法は正当である。次に具体的構成をみるに、引用発明は主搬送波の使用を必須の構成としているのに対し、本願発明はこれに限定されず、主搬送波を必要としない技術的思想を有している。この意味で、本願発明は引用発明を拡張・変更したものであり、構成要件に差異が認められる。たとえ本願発明を主搬送波で使用する場合(実施態様の重複)があっても、それは発明の構成そのものの差異を否定するものではない。したがって、両発明を同一と解することはできない。
結論
本願発明と引用発明は構成要件を異にする別個の発明であり、旧特許法8条(現行法39条1項参照)の同一発明には当たらない。
実務上の射程
特許請求の範囲(クレーム)の解釈において明細書参酌を認めた初期の重要判例。また、後願が先願の限定を外した「上位概念」的発明である場合、先願の構成を包含する実施態様があったとしても、技術的思想(構成要件)の対比により別個の発明となり得ることを示している。
事件番号: 昭和42(行ツ)29 / 裁判年月日: 昭和50年7月10日
【結論(判旨の要点)】特許法29条の2における発明の同一性は、発明の目的、構成及び効果を対比して判断すべきであり、請求項に記載された技術的手段の具体的態様が異なる場合には、原則として同一の発明とは認められない。 第1 事案の概要:本件発明(特許出願された発明)は、特定の通信路において主搬送波または副搬送波のいずれか一方…