判旨
発明の新規性を判断する際の発明の技術的範囲の確定について、特許請求の範囲の記載を基準としつつも、明細書全般(発明の詳細な説明等)の記載を参酌して判断することは適法である。
問題の所在(論点)
発明の新規性の存否を判断するための「発明の内容」を認定する際、特許請求の範囲以外の明細書の記載(発明の詳細な説明等)を資料として用いることは許されるか。
規範
特許発明の技術的範囲(発明の内容)の認定においては、特許請求の範囲の記載を基準とすべきであるが、その解釈にあたっては、明細書全般の記載、特に「発明の詳細なる説明」等の内容を判断の資料として参酌し、発明の要旨を認定することができる。
重要事実
上告人の本件特許出願(昭和24年第10897号)に対し、特許庁は先行する特許(第140115号)に基づき新規性がないとして拒絶審決を下した。上告人は、原判決が特許請求の範囲外の事項まで考慮して発明を認定したのは、民事訴訟法上の処分権主義に反し、かつ特許出願権の侵害であると主張して上告した。本件の特許請求の範囲には「恒久ケーシングの電極と合致する部分の下の電極を炉瓦斯を蒐集する密閉室で囲み…」との記載があった。
あてはめ
原審は、本件出願と引用例の各特許請求の範囲に相違点があることを前提に、その相違点がどのように実施されるかという具体的発明内容の認定において、特許請求の範囲のみに固執せず、明細書全般の記載や発明の詳細なる説明を資料として新規性を判断した。このような判断手法は、特許請求の範囲を基準とする原則に反するものではなく、また特許請求の範囲は民訴法上の「当事者の申し立てた事項」そのものではないため、処分権主義(当時の民訴法186条)にも違反しない。したがって、発明の要旨を明細書全体から認定した原判決に違法はない。
結論
発明の新規性を判断するにあたり、特許請求の範囲を基準としつつ明細書全般を参酌して発明の内容を認定することは適法であり、上告は棄却される。
実務上の射程
本判決は、現在の特許法70条1項(特許発明の技術的範囲は願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない)および同条2項(明細書の記載等を参酌できる)の考え方の先駆けとなる判例である。答案上は、クレーム解釈において「特許請求の範囲」を基礎としつつも、その用語の意味内容を「発明の詳細な説明」によって合理的に確定すべき根拠として活用できる。
事件番号: 昭和63(行ツ)86 / 裁判年月日: 平成3年9月17日 / 結論: 棄却
出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達があった後にする補正が特許法六四条一項ただし書の要件を具備するか否かは、当該補正の時点における明細書又は図面を基準として判断されるべきである。