甲乙間で、甲の乙に対するA債権と乙の丙に対するB債権とを相殺することができる旨の相殺予約をしたが、乙の債権者丁がB債権を差し押さえた後に甲が右相殺予約に基づき乙に対して相殺の意思表示をしたなど原判示の事実関係の下においては、丙は、右相殺をもって丁に対抗することはできない。
甲乙間でされた甲の乙に対するA債権と乙の丙に対するB債権とを相殺することができる旨の相殺予約に基づく相殺をもって丙がB債権の差押債権者丁に対抗することができないとされた事例
民法505条,民法511条
判旨
第三者による債権の差押え後に、相殺予約に基づき第三者が介入する形で行われた相殺は、実質的に債権譲渡と同視できる場合には、差押債権者に対抗することができない。
問題の所在(論点)
債権の差押えがなされた後において、相殺予約に基づき、実質的に債権譲渡と同視できる態様で行われた相殺の意思表示を、差押債権者に対抗できるか。
規範
債権が差し押さえられた場合、第三債務者はその後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗できない(民法511条の趣旨)。相殺予約に基づく相殺であっても、その実態が特定の第三者に対する債権譲渡と実質的に同視できる場合には、差押えによる処分禁止効が優先され、差押債権者への対抗は許されない。
重要事実
被上告人(債権者)が、債務者の第三債務者に対する債権を差し押さえた。その後、第三債務者であるD株式会社は、あらかじめ締結されていた相殺予約に基づき、上告人(特定の第三者)の債権を介在させる形で相殺の意思表示を行った。この相殺予約の趣旨は不明確であったが、形式的には相殺の形をとりつつ、実質的には上告人に対する債権譲渡の機能を果たすものであった。
あてはめ
本件におけるD株式会社の相殺は、その性質が必ずしも一義的に明確ではない。しかし、差押え後に行われた当該相殺の意思表示は、実質において上告人に対する債権譲渡としての性質を有するものである。差押えには被差押債権の処分を禁止する効力があるため、実質的に債権譲渡として機能する右相殺を認めることは、差押えの効力を没却させることと同義である。したがって、かかる相殺は実質的な譲渡行為と解され、差押債権者たる被上告人には対抗できない。
結論
上告人は、D株式会社が差押え後にした相殺の意思表示をもって被上告人に対抗することはできない。
実務上の射程
判決文が短く論理が抽象的だが、民法511条の制限を潜脱するような「予約に基づく相殺」の効力を否定する際に用いる。特に、相殺の形式を借りた実質的な債権回収(債権譲渡)が差押債権者との関係で許されるかが争点となる事案で、差押えの処分禁止効を重視する根拠として引用可能である。
事件番号: 平成11(受)1345 / 裁判年月日: 平成13年3月13日 / 結論: 棄却
抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は,抵当不動産の賃借人は,抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって,抵当権者に対抗することはできない。