抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は,抵当不動産の賃借人は,抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって,抵当権者に対抗することはできない。
抵当不動産の賃借人が抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって賃料債権に物上代位権の行使としての差押えをした抵当権者に対抗することの可否
民法304条1項,民法372条,民法505条,民事執行法193条
判旨
抵当権者が賃料債権を物上代位により差し押さえた後は、賃借人は抵当権設定登記後に取得した債権を自働債権とする相殺(相殺合意を含む)を抵当権者に対抗できない。
問題の所在(論点)
抵当不動産の賃借人が、抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権を自働債権として、物上代位による差押えにかかる賃料債権と相殺し、またはその相殺合意を抵当権者に対抗できるか。民法304条1項および372条の解釈が問題となる。
規範
抵当権設定登記により物上代位の効力が賃料債権に及ぶことは公示されている。よって、登記後に取得した債権と賃料債権との相殺に対する賃借人の期待を、物上代位権の行使により及んでいる抵当権の効力に優先させるべきではない。これは、あらかじめ賃貸人・賃借人間で相殺合意がなされていた場合であっても同様である。
重要事実
抵当権者(被上告人)が建物に根抵当権を設定し、その登記を完了した。その後、建物の賃借人(上告人)は、賃貸人に対して債権を取得した。賃借人と賃貸人は、この債権と将来の賃料債権を対当額で相殺する旨を合意していた。その後、抵当権者が物上代位権に基づき賃料債権の差押えを行ったが、賃借人は上記相殺合意の効力を主張して抵当権者に対抗した。
あてはめ
本件において、賃借人が自働債権を取得したのは根抵当権設定登記の後である。抵当権の効力が賃料債権に及ぶことは登記により公示されており、賃借人は将来の物上代位を予見し得たといえる。したがって、差押え後に発生した賃料債権については、抵当権の優先的効力が優先されるべきであり、相殺合意があったとしても、登記後に債権を取得した以上、抵当権者には対抗できない。
結論
抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記の後に取得した債権を自働債権とする相殺をもって、物上代位権を行使して賃料債権を差し押さえた抵当権者に対抗することはできない。
実務上の射程
抵当権の公示力を重視し、相殺の期待(民法511条の法理)と物上代位の優先関係を判断した基準である。答案では、自働債権の取得時期が「抵当権設定登記の前か後か」を最大の画期として論じる必要がある。敷金充当などの賃貸借契約の本質に付随する決済とは区別して適用すべきである。
事件番号: 平成12(受)836 / 裁判年月日: 平成14年3月28日 / 結論: 棄却
敷金が授受された賃貸借契約に係る賃料債権につき抵当権者が物上代位権を行使してこれを差し押さえた場合において,当該賃貸借契約が終了し,目的物が明け渡されたときは,賃料債権は,敷金の充当によりその限度で消滅する。