1 担保不動産収益執行の管理人は担保不動産の収益に係る給付を求める権利を行使する権限を取得するにとどまり,同権利自体は,担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後に弁済期の到来するものであっても,所有者に帰属する。 2 抵当不動産の賃借人は,担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後においても,抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権を自働債権とし賃料債権を受働債権とする相殺をもって管理人に対抗することができる。
1 担保不動産収益執行における担保不動産の収益に係る給付を求める権利の帰属 2 抵当不動産の賃借人が,担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後に,抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権を自働債権とし賃料債権を受働債権とする相殺をもって管理人に対抗することの可否
(1,2につき) 民事執行法93条,民事執行法95条,民事執行法188条,民法371条,民法505条
判旨
担保不動産収益執行において、管理人は賃料債権を行使する権限を取得するにとどまり、債権自体は所有者に帰属するため、賃借人は抵当権設定登記前に取得した債権を自働債権とする相殺をもって管理人に対抗できる。
問題の所在(論点)
1. 担保不動産収益執行開始後、賃料債権の帰属は誰か。また、相殺の意思表示の相手方は誰か。 2. 賃借人は、抵当権設定登記前に取得した債権を自働債権として、執行開始後の賃料債権と相殺し、これをもって管理人に対抗できるか。
規範
1. 担保不動産収益執行の開始決定後も、賃料債権等は依然として所有者に帰属し、管理人はその権利を行使する権限(受領権限)を取得するにとどまる。したがって、所有者は相殺の意思表示を受領する資格を失わない。 2. 抵当権の効力が収益に及ぶことは登記により公示されるが、賃借人が抵当権設定登記前に取得した債権については、賃料債権と相殺することへの期待が抵当権の効力に優先して保護される。よって、賃借人は抵当権設定登記前に取得した債権を自働債権とする相殺をもって管理人に対抗できる。
重要事実
建物の共有持分権者Aは、上告人に対し、返還時期の定めのある保証金(本件保証金)を受領して建物を賃貸した。その後、本件建物に抵当権が設定され登記された。Aが他債務で差押えを受けたことで保証金返還債務の期限の利益を喪失した後、抵当権に基づき担保不動産収益執行が開始され、被上告人が管理人に選任された。上告人は、抵当権設定登記前に発生していた保証金返還債権を自働債権とし、執行開始後の賃料債権を受働債権として、Aに対し相殺の意思表示をした。
あてはめ
1. 賃料債権は開始決定後も所有者Aに帰属するため、Aに対してなされた本件相殺の意思表示は有効である。 2. 上告人の保証金返還債権は、本件抵当権設定登記前に取得されたものである。相殺の意思表示の時点で、自働債権(保証金返還債権)は期限の利益を喪失しており、受働債権(賃料債権)と共に相殺適状にあった。抵当権設定登記前に債権を取得した賃借人の相殺への期待は、抵当権の優先弁済権に優先する。したがって、上告人は管理人である被上告人に対し、相殺による賃料債務の消滅を主張できる。
結論
上告人は本件相殺をもって管理人に対抗できる。賃料債権は相殺により対当額で消滅したため、被上告人の請求は認められない。
実務上の射程
物上代位(民法304条)に基づく賃料債権の差し押さえと相殺の場面でも、抵当権設定登記と自働債権の取得時期の前後で決する同様の枠組みが適用される。答案上では、管理人の法的地位(行使権限のみ)と、相殺の期待保護の基準時(抵当権設定登記時)を明記することが肝要である。
事件番号: 昭和38(オ)1458 / 裁判年月日: 昭和41年5月26日 / 結論: 棄却
他人の物の賃貸借において、賃貸人がその物の所有者に対抗できる何らの権限をも有しないため、賃借人が、その物に対する使用収益に関して、現実に所有者から不法占有を理由とする損害賠償の請求等を受けて、その責に任じなければならない事態となつたときは、賃借人は賃貸人に対する賃料の支払を拒否し得るものと解すべきである。