原判決は、刑法一九条一項三号、二項により押収にかかる「A印」と刻してある丸型印鑑一個を被告人らから没収するとしていること所論のとおりであつて、論旨引用の大審院昭和七年(れ)第六七五号同年七月二〇日判決の趣旨に相反するわけであるが、原判決が刑法一九条を適用して所論の印章を没収している以上、同条一項各号の適用に誤があつても、判決に影響を及ぼさないことが明らかであるから、原判決を破棄する理由とならない。
判例違反が判決に影響を及ぼさない事例―刑法第一九条第一項各号の適用の誤り。
刑訴法401条1項,刑訴法405条3号,刑法19条1項2号,刑法19条1項3号
判旨
没収の対象となる物が刑法19条1項各号のいずれかに該当する以上、適用すべき号の選択に誤りがあったとしても、結論として没収が認められるのであれば判決に影響を及ぼさない。
問題の所在(論点)
没収の根拠条文として刑法19条1項各号のうち不適切な号を選択・適用した場合、その誤りは判決を破棄すべき事由(判決に影響を及ぼすべき法令違反)に該当するか。
規範
没収の対象物が刑法19条1項各号(犯罪組成物、犯罪供用物、犯罪生成物等)のいずれかに該当し、かつ同条2項の要件(被告人以外の者に属しないこと等)を満たしている場合には没収が可能である。裁判所が適用した各号の選択に誤りがあったとしても、客観的に同条の要件を満たしている限り、その誤りは判決の結論に影響を及ぼす違法とはならない。
重要事実
被告人らに対し、有印私文書偽造等の罪に関連して、押収されていた「A印」と刻印された丸型印鑑1個が没収された。原判決は、この没収の根拠条文として刑法19条1項3号(犯罪によって生じ、若しくはこれによって得た物等)および同条2項を適用した。これに対し弁護人は、当該印鑑は3号ではなく他の号に該当すべきであり、適用の誤りがあるとして上告した。
事件番号: 昭和35(あ)1358 / 裁判年月日: 昭和36年3月30日 / 結論: 棄却
一 刑法第一九条第一項の規定は憲法第二九条に違反しない 二 実在しない東京都千代田区a町b番地司法局別館人権擁護委員会会計課作成名義の証明書を作成、行使した場合においても、その文書の形式外観において、一般人をして、右の如く公務所が実在し、右委員会がその職務権限内において作成した公文書であると誤信せしめるに足りるものと認…
あてはめ
本件において、原判決が適用した刑法19条1項3号が当該印鑑の性質(偽造に用いた道具等)に照らして適切であったかについては疑問が残る(大審院判例と抵触する可能性がある)。しかし、当該印鑑が犯罪行為に関係し、刑法19条に基づく没収の対象となり得る物であることに変わりはない。したがって、同条1項のいずれの号に該当するかという評価に誤りがあったとしても、没収という結論自体は正当化される。このような形式的な号選択の誤りは、実質的な判断を左右するものではなく、判決に影響を及ぼすものとは認められない。
結論
没収の根拠となる号の適用に誤りがあっても、刑法19条による没収が許容される事案であれば、判決に影響を及ぼさないため、上告理由とはならない。
実務上の射程
司法試験等の答案作成において、没収の対象物が「犯罪組成物(1号)」か「犯罪供用物(2号)」か等の区別が微妙な場合でも、いずれかに該当すれば19条に基づく没収が可能であるという結論を導く際の補助的論拠として活用できる。
事件番号: 昭和39(あ)2599 / 裁判年月日: 昭和41年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不作為犯に関する判例の法理は、積極的な動作を伴う作為犯の事案には直接適用されず、作為犯と不作為犯は峻別されるべきである。 第1 事案の概要:被告人AおよびBは、特定の犯罪行為(詳細は判決文からは不明)について作為犯として起訴され、有罪判決を受けた。これに対し弁護人は、不作為犯に関する大法廷判決や朝…
事件番号: 昭和36(あ)41 / 裁判年月日: 昭和36年4月4日 / 結論: 棄却
本件起訴状に罰条として刑法一五八条の記載のないことは所論のとおりである。しかし、本件控訴事実と罰名との記載によると罰条として刑法一五八条を推認することができるし、一方また右罰条の記載の遺脱のために被告人の防禦に実質的な不利益を生じたとは認め難いから、原判決には何らの違法はない。
事件番号: 昭和46(あ)149 / 裁判年月日: 昭和47年6月15日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】被告人以外の者が作成した登記申請書の訂正状況が、変造とされる公文書の改ざん後の内容と一致する場合、被告人の弁解を排斥できず、有罪認定には重大な事実誤認の疑いがある。 第1 事案の概要:被告人は、不動産登記申請にあたり、固定資産評価証明書の評価額を書き換えて有印公文書を変造・行使したとして起訴された…
事件番号: 昭和59(あ)1559 / 裁判年月日: 昭和60年3月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】余罪を量刑の資料とする際、それが実質的に未起訴の犯罪を処罰する趣旨で考慮されたものでない限り、憲法31条及び39条には反しない。 第1 事案の概要:被告人は有印私文書偽造・同行使等の罪で起訴された。第一審判決は、本件各犯行の犯罪組成物件を没収するとともに、未起訴の事実(余罪)を量刑の資料として考慮…