上告審であらたに提出された書面を公判廷に顕出し、その外観、記載内容、事件の経緯等に徴し、事実誤認を疑うべき顕著な事由があるとして破棄された事例
刑訴法393条,刑訴法411条3号
判旨
被告人以外の者が作成した登記申請書の訂正状況が、変造とされる公文書の改ざん後の内容と一致する場合、被告人の弁解を排斥できず、有罪認定には重大な事実誤認の疑いがある。
問題の所在(論点)
被告人が公文書の改ざんに関与したという事実認定について、被告人の弁解と矛盾しない客観的な新証拠(登記申請書)が存在する場合に、原判決の維持が著しく正義に反する「重大な事実誤認」に該当するか。
規範
刑事訴訟法411条3号にいう「判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認」があるというためには、原判決の依拠した証拠関係に照らし、認定された犯罪事実の存在に合理的な疑いを生じさせる客観的証拠や事情が存在し、これを是認することが著しく正義に反すると認められる必要がある。
重要事実
被告人は、不動産登記申請にあたり、固定資産評価証明書の評価額を書き換えて有印公文書を変造・行使したとして起訴された。被告人は、改ざんは前任の司法書士Dによるものであり、自分は気づかずに使用したに過ぎないと主張。上告審で提出されたD作成の登記申請書には、課税価格等が訂正された形跡があり、その訂正後の金額が本件証明書の改ざん後の数値と一致していた。
あてはめ
D名義の登記申請書における課税価格の訂正前の金額は本件証明書の改ざん前の合計額と一致し、訂正後の金額は改ざん後の合計額と一致している。また、D自身も登録税額の備忘録を記入したことを認めている。このような外観・記載内容に照らせば、本件不動産の登記に関連する書面である可能性を否定できず、本件証明書が被告人の手に渡る前に既に改ざんされていたという余地が生じる。したがって、被告人の弁解を容易に排斥することはできない。
事件番号: 昭和23(れ)619 / 裁判年月日: 昭和23年10月16日 / 結論: 棄却
原判決の事實摘示と、これが採證の用に供した各始末書、申述書の記載との間に、被告人が僞造轉出證明書に使用した架空人物の氏名不一致の點がありとしても、作成名儀人その他本件僞造文書の重大な要素についての記載内容において、兩者が一致する以上、右判示を違法とすることはできない。
結論
被告人を有罪とした第一審判決を是認した原判決には、重大な事実誤認を疑うべき顕著な事由がある。よって、原判決を破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
司法試験等の刑事訴訟法において、上告審での職権破棄事由である「重大な事実誤認」(411条3号)を論じる際の事実認定のあり方を示す。特に、被告人の供述内容を裏付けるような客観的資料の存在が、有罪認定を左右する「合理的な疑い」に直結することを具体的に示す事例として活用できる。
事件番号: 昭和36(あ)2043 / 裁判年月日: 昭和36年12月19日 / 結論: 棄却
原判決は、刑法一九条一項三号、二項により押収にかかる「A印」と刻してある丸型印鑑一個を被告人らから没収するとしていること所論のとおりであつて、論旨引用の大審院昭和七年(れ)第六七五号同年七月二〇日判決の趣旨に相反するわけであるが、原判決が刑法一九条を適用して所論の印章を没収している以上、同条一項各号の適用に誤があつても…
事件番号: 昭和31(あ)3605 / 裁判年月日: 昭和35年4月19日 / 結論: 棄却
一 収賄罪における賄賂収受の場所の差異につき、起訴状の記載に「東京都北区ab丁目c番地被告人自宅」とあるのを第一審判決で「東京都北区de丁目b、f番地の当時の被告人自宅」と認定するには、訴因変更の手続を要しない。 二 控訴趣意書自体に控訴理由を明示しないで、第一審に提出した弁論要旨と題する書面の記載を援用する旨の控訴趣…
事件番号: 昭和26(れ)283 / 裁判年月日: 昭和26年6月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本判決は、弁護人の上告趣意が刑事訴訟法405条の上告理由に該当せず、かつ同法411条を適用して職権で判決を取り消すべき事由も認められないとして、上告を棄却したものである。 第1 事案の概要:本件の上告人は、弁護人を通じて上告趣意を提出したが、具体的な事案の内容や下級審の判断、上告趣意の詳細について…
事件番号: 昭和26(れ)838 / 裁判年月日: 昭和26年10月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実質的に刑事訴訟法411条(判決の破棄)の事由を主張するにすぎない上告理由は、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が憲法違反を主張して上告を申し立てた。しかし、その主張の実質は、刑事訴訟法411条が規定する「著しく正義に反すると認めるとき」等の職権破棄事由があることを主張するも…