原判決の事實摘示と、これが採證の用に供した各始末書、申述書の記載との間に、被告人が僞造轉出證明書に使用した架空人物の氏名不一致の點がありとしても、作成名儀人その他本件僞造文書の重大な要素についての記載内容において、兩者が一致する以上、右判示を違法とすることはできない。
判示事實と證據との間における瑣末な點の不一致と理由不備
刑法155条,刑訴法360条1項,刑訴法410条19号
判旨
有印公文書偽造罪において、偽造された転出証明書に記載された転出者(架空人物)の氏名が、判示事項と証拠間で一部不一致であっても、作成名義人やその他の記載内容が一致していれば文書の同一性は失われない。
問題の所在(論点)
偽造文書に記載された架空人物の氏名について、判決が認定した事実と証拠記載との間に相違がある場合、それが文書の同一性を害し、採証法則違反等の違法を構成するか。
規範
偽造文書に表示された架空人物の氏名が何であるかは、文書の重大な要素ではなく、作成名義人およびその他の記載内容において客観的な同一性が認められる限り、一部の瑣末な記載に差異があっても、証拠との照応関係を否定すべき違法な事実誤認とはならない。
重要事実
被告人は偽造転出証明書を作成したとして有印公文書偽造罪に問われた。原判決が認定した事実と、その証拠とされた各始末書・申述書の記載との間には、転出者として表示された架空人物の氏名について一部不一致が存在した。弁護人は、この証拠と事実の不一致を理由に、原判決には違法があると主張して上告した。
事件番号: 昭和23(れ)676 / 裁判年月日: 昭和23年10月26日 / 結論: 棄却
架空の者を代表者として、実在する会社名義の契約書及び領収書を作成する行為は、私文書偽造罪を構成する。
あてはめ
本件において、不一致が指摘されているのは偽造された転出証明書に表示された「架空の人物」の氏名に過ぎない。文書の核心的な要素である「作成名義人」やその他の主要な記載内容については、原判決の判示と証拠(始末書等)の内容が一致している。そうであれば、架空の転出者が誰であるかという点は瑣末な差異に留まり、偽造された文書自体の同一性を左右するものではない。したがって、原判決がこれらの証拠を判示事実に照応するものと判断したことに誤りはない。
結論
被告人の上告を棄却する。架空人物の氏名の不一致は文書の同一性を害さず、原判決に違法はない。
実務上の射程
公文書偽造罪の成否や事実認定において、虚偽の内容として記載された「細部の事実(架空の客体名など)」の認定に多少の揺らぎがあっても、名義人の偽冒という核心的部分が証拠によって裏付けられている限り、判決の妥当性は維持されるという実務上の指針を示す。
事件番号: 昭和46(あ)149 / 裁判年月日: 昭和47年6月15日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】被告人以外の者が作成した登記申請書の訂正状況が、変造とされる公文書の改ざん後の内容と一致する場合、被告人の弁解を排斥できず、有罪認定には重大な事実誤認の疑いがある。 第1 事案の概要:被告人は、不動産登記申請にあたり、固定資産評価証明書の評価額を書き換えて有印公文書を変造・行使したとして起訴された…
事件番号: 昭和24(れ)822 / 裁判年月日: 昭和27年12月25日 / 結論: 棄却
中京区役所第四駐在員事務所主任ではなく単なる同事務所の事務員であつて主任を補助して事務を執つている者にすぎない者は転出証明書を作成交付する権限のない者であるから同人が擅に行使の目的を以つて内容虚偽の転出証明書を作成したことは刑法一五五条の公文書偽造であつて、同法一五六条の犯罪にはならない。
事件番号: 昭和26(れ)587 / 裁判年月日: 昭和27年3月14日 / 結論: 棄却
法令合議事件を一人の裁判官が審判した場合は、単なる訴訟手続の法令違反であつて、事物管轄の規定に違反したものとして取り扱うべきでない。
事件番号: 昭和23(れ)1874 / 裁判年月日: 昭和24年4月14日 / 結論: 棄却
米軍第一騎兵師団庶務課長A(架空人)と記載して、あたかも米軍第一師団の発行したものと思わせるような文書を作成するときは、私文書偽造罪が成立する。