米軍第一騎兵師団庶務課長A(架空人)と記載して、あたかも米軍第一師団の発行したものと思わせるような文書を作成するときは、私文書偽造罪が成立する。
米軍第一騎兵師団庶務課長A(架空人)と記載した文書の作成と私文書偽造罪の成立
刑法159条
判旨
文書偽造罪は文書の真正に対する公共の信頼を保護法益とするため、発行名義人が架空の人物であっても、一般人が実在の団体等による真正な文書と誤認するおそれがある場合には私文書偽造罪が成立する。
問題の所在(論点)
発行名義人が架空の人物である場合、刑法159条1項の私文書偽造罪における「他人の印章若しくは署名を使用して」という要件、あるいは文書偽造罪の成否に影響を及ぼすか。
規範
文書偽造罪の本質は、法律上重要な事実に関し、文書の真正に対する公共の信頼を害する危険を処罰する点にある。したがって、発行名義人が架空の人物であっても、その文書の形式及び内容から、普通一般人がこれを実在する特定の団体や機関から発行された真正な文書と誤認する可能性(公共の信頼を害する危険)がある場合には、同罪が成立する。
重要事実
被告人は、英文で「米軍第一騎兵師団庶務課長A」を発行名義人とする文書を偽造した。実際には、同師団にAという人物は勤務しておらず、少佐Bという人物が勤務していた。そのため、名義人Aは架空の人物であった。弁護人は、名義人が架空である以上、同師団発行の文書とはいえず、偽造罪は成立しないと主張して上告した。
事件番号: 昭和28(あ)1481 / 裁判年月日: 昭和34年6月12日 / 結論: 棄却
行使の目的を以つて、擅に設立中の会社名義の売買契約書を作成したときは私文書偽造罪が成立する。
あてはめ
本件において、米軍第一騎兵師団やジョンソン航空隊が日本に実在することは一般に知られた顕著な事実である。たとえ名義人たる庶務課長Aが架空の人物であっても、本件文書の形式及び内容は、実在する当該師団の職位を冠したものである。そうであれば、普通一般人をして同師団から発行された真正な文書であると誤認させる可能性が十分に認められ、文書の真正に対する公共の信頼を害する危険があるといえる。
結論
発行名義人が架空であっても、一般人が真正な文書と誤認するおそれがある以上、私文書偽造罪が成立する。また、日本の公務員名義でない以上、公文書に該当しない文書はすべて私文書に含まれる。
実務上の射程
名義人の実在性は偽造罪の成立に不可欠ではなく、一般人の誤信可能性(社会的公共の信頼)が基準となる。答案では「偽造」の定義(名義人と作成者の不一致)を論じる際、名義人が架空であっても公共の信頼を害する形式を備えていれば偽造にあたると指摘する根拠として活用できる。
事件番号: 昭和23(れ)676 / 裁判年月日: 昭和23年10月26日 / 結論: 棄却
架空の者を代表者として、実在する会社名義の契約書及び領収書を作成する行為は、私文書偽造罪を構成する。
事件番号: 平成14(あ)1164 / 裁判年月日: 平成15年10月6日 / 結論: 棄却
正規の国際運転免許証に酷似する文書をその発給権限のない団体Aの名義で作成した行為は,上記文書が,一般人をして,その発給権限を有する団体であるAにより作成された正規の国際運転免許証であると信用させるに足りるものであるなど判示の事実関係の下では,団体Aから上記文書の作成を委託されていたとしても,私文書偽造罪に当たる。
事件番号: 昭和44(あ)1421 / 裁判年月日: 昭和45年9月4日 / 結論: 棄却
他人の代表者または代理人として文書を作成する権限のない者が、他人を代表もしくは代理すべき資格、または、普通人をして他人を代表もしくは代理するものと誤信させるに足りるような資格を表示して作成した文書の名義人は、代表もしくは代理された本人であると解するのが相当である。
事件番号: 昭和23(れ)619 / 裁判年月日: 昭和23年10月16日 / 結論: 棄却
原判決の事實摘示と、これが採證の用に供した各始末書、申述書の記載との間に、被告人が僞造轉出證明書に使用した架空人物の氏名不一致の點がありとしても、作成名儀人その他本件僞造文書の重大な要素についての記載内容において、兩者が一致する以上、右判示を違法とすることはできない。