本件起訴状に罰条として刑法一五八条の記載のないことは所論のとおりである。しかし、本件控訴事実と罰名との記載によると罰条として刑法一五八条を推認することができるし、一方また右罰条の記載の遺脱のために被告人の防禦に実質的な不利益を生じたとは認め難いから、原判決には何らの違法はない。
起訴状に罰条の記載の遺脱があつた場合。
刑訴法256条4項
判旨
起訴状に適用罰条の記載が遺脱している場合であっても、公訴事実および罪名の記載から当該罰条を推認でき、かつ被告人の防御に実質的な不利益を生じさせない限り、当該起訴は有効である。
問題の所在(論点)
起訴状に適用罰条の記載が漏れている場合、刑訴法256条3項3号違反として起訴の効力や判決に影響を及ぼすか。
規範
起訴状における適用罰条(刑訴法256条3項3号)の記載に遺脱がある場合でも、公訴事実(同項2号)および罪名(同項3号)の記載内容から当該罰条を合理的に推認することができ、かつ、その記載の遺脱が被告人の防御に実質的な不利益を生じさせたと認められないときは、適法な起訴として許容される。
重要事実
被告人が起訴された際、起訴状には公訴事実と罪名が記載されていたが、適用すべき罰条として刑法158条(偽造公文書等行使罪等)の記載が漏れていた。弁護人は、この罰条記載の欠如が法令違反にあたるとして上告した。
事件番号: 昭和59(あ)1559 / 裁判年月日: 昭和60年3月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】余罪を量刑の資料とする際、それが実質的に未起訴の犯罪を処罰する趣旨で考慮されたものでない限り、憲法31条及び39条には反しない。 第1 事案の概要:被告人は有印私文書偽造・同行使等の罪で起訴された。第一審判決は、本件各犯行の犯罪組成物件を没収するとともに、未起訴の事実(余罪)を量刑の資料として考慮…
あてはめ
本件では、起訴状の罰条欄に刑法158条の記載がなかったものの、公訴事実の内容および示された罪名の記載を照らし合わせれば、刑法158条が適用されることは十分に推認できる。また、この記載の遺脱によって被告人が何らかの予期せぬ不利益を被ったり、防御権の行使が妨げられたりした事実は認められない。したがって、防御に実質的な不利益が生じたとはいえない。
結論
罰条の記載遺脱は判決に影響を及ぼすような違法とはならず、上告は棄却される。
実務上の射程
起訴状の形式的不備が直ちに公訴棄却(刑訴法338条4号)に繋がるわけではなく、公訴事実の特定という趣旨に照らし、防御権侵害の有無という実質的観点から有効性を判断する。答案上は、訴因変更の要否等で示される「防御権侵害の有無」と同様の視点から、罰条の誤記や記載漏れを論じる際に活用できる。
事件番号: 昭和36(あ)2043 / 裁判年月日: 昭和36年12月19日 / 結論: 棄却
原判決は、刑法一九条一項三号、二項により押収にかかる「A印」と刻してある丸型印鑑一個を被告人らから没収するとしていること所論のとおりであつて、論旨引用の大審院昭和七年(れ)第六七五号同年七月二〇日判決の趣旨に相反するわけであるが、原判決が刑法一九条を適用して所論の印章を没収している以上、同条一項各号の適用に誤があつても…
事件番号: 昭和40(あ)12 / 裁判年月日: 昭和41年5月26日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】刑法155条1項の「公務所の署名」の有無については、文書の形式的外観から客観的に判断すべきであり、公務所の名称の記載等がない文書については、有印公文書としての成立を認めることはできない。 第1 事案の概要:被告人らは、公務上の文書である「昭和二五年度支出負担行為簿」に虚偽の記入をし、これを行使した…
事件番号: 昭和25(あ)2008 / 裁判年月日: 昭和26年6月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本件決定は、訴訟法違反や量刑不当の主張は刑事訴訟法405条の上告理由に該当せず、職権調査の結果によっても同法411条を適用して原判決を破棄すべき事由は認められないとして、上告を棄却したものである。 第1 事案の概要:被告人Aが上告した事案において、その上告趣意の内容は、第一点および第二点が訴訟法違…