判旨
実況見分調書における立会人の供述を記載する場合でも、当該立会人の署名押印は不要である。また、調書の整理完成が実地見分から数日後であっても、作成日付を見分実施日に遡らせたことをもって直ちに違法とはならない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法321条3項の書面(実況見分調書)の証拠能力に関し、①立会人の指示説明を記載する際にその者の署名捺印が必要か、②調書の整理完成が見分実施日の数日後になり、日付を遡らせて作成された場合に違法となるかが問題となった。
規範
1. 刑事訴訟法321条3項の実況見分調書において、立会人の指示説明としてその供述を記載した場合であっても、当該立会人の署名捺印を要しない。 2. 実況見分調書の作成手続きにおいて、整理完成の日が実施日の数日後であったとしても、直ちに作成の日から着手されていた等の事情があれば、日付を実施日に遡らせて記載したことのみをもって当該調書を違法とすることはできない。
重要事実
被告人が立会人として署名押印したが、それが白紙状態であったと主張される実況見分調書の証拠能力が争われた事案。当該調書は、巡査部長Bが司法巡査Aを補助者として実施した見分に基づき作成された。調書が最終的に整理完成されたのは実地見分の5日後であったが、作成名義人による見分自体は実施日に行われ、作成作業も継続されていた。弁護人は、立会人の署名手続の不備や、作成日付の遡及、作成名義人の真正を理由に証拠能力を否定する上告を行った。
あてはめ
①について、実地見分調書における立会人の指示説明は、見分内容を特定するための付随的記載に過ぎない。そのため、判例の趣旨に照らせば、供述をした立会人の署名捺印は不要である。本件において署名が白紙になされた等の主張は、証拠能力を左右しない。 ②について、証拠調べによれば、見分実施から5日後に調書が「整理完成」されたに過ぎず、その5日後に初めて作成に着手されたわけではない。作成名義人Bが見分を行い、その補助者Aと共に作業を進めていた実態がある以上、日付を遡らせて記載しても手続き上の違法は認められない。
結論
本件実況見分調書に違法はなく、証拠能力を認めた原判決は正当である。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
実況見分調書の形式的要件(321条3項)に関する重要判例。立会人の署名捺印が「供述」部分に対して不要であることを明示しており、実務上の調書作成の許容範囲を画定している。また、作成日付の遡及についても、実地見分と作成プロセスが連続している限り、数日のタイムラグは許容される。答案上は、伝聞例外の要件充足性を検討する際の「作成の正確性」に関する議論で引用し得る。
事件番号: 昭和40(あ)1768 / 裁判年月日: 昭和41年2月17日 / 結論: 棄却
捜査機関が任意処分として検証(実況見分)を行うに当り、被疑者、目撃者その他の者(以下関係人という)を立合わせ、これらの立会人をして実況見分の目的物その他必要な状態を任意に指示、説明させるのは、実況見分の一つの手段であつて、関係人を取調べて、その供述を求めるのとは、その性質を異にし、また、右指示説明を実況見分調書に記載す…