一 捜査機関が任意処分として行う検証の結果を記載したいわゆる実況見分調書は、たとえ被告人側においてこれを証拠とすることに同意しなくても、検証調書について刑訴第三二一条第三項に規定するところと同一の条件の下に、これを証拠とすることができる。 二 実況見分の手段として被疑者、被害者その他の者をこれに立ち会わせ、立会人の指示説明としてそれらの者の供述を聴きこれを記載した実況見分調書には右供述者の署名押印を必要としない。 三 右実況見分調書は、更めてその立会人を公判期日において尋問する機会を被告人に与えなくても、これを証拠とすることができる。
一、実況見分調書の証拠能力 二、実況見分調書における立会人の供述記載とその署名押印の要否 三、立会人の供述を記載した実況見分調書を証拠とすることと立会人喚問の要否。
憲法37条2項,刑訴法321条3項
判旨
実況見分調書は刑訴法321条3項所定の書面に包含され、作成者が公判期日に証人として真正作成を供述すれば、被告人の同意なくして証拠能力が認められる。また、同書面中の現場指示・説明は検証の手段にすぎず、供述者の署名押印や反対尋問の機会は不要である。
問題の所在(論点)
任意処分としての実況見分調書が刑訴法321条3項の伝聞例外に該当するか。また、同書面中に含まれる立会人の指示・説明の記載に、供述者の署名押印や反対尋問の機会の保障(憲法37条2項)が必要とされるか。
規範
1. 任意処分である実況見分の結果を記載した「実況見分調書」は、性質上、刑訴法321条3項にいう「検証の結果を記載した書面」に包含される。2. 同書面は、作成者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、同条1項の規定にかかわらず証拠とすることができる。3. 調書中の立会人による指示・説明の記載は、実況見分の手段としての態様を記載したものであり、供述録取そのものではないため、供述者の署名押印や、供述者を証人喚問して反対尋問の機会を与えることは必要ない。
重要事実
被告人側は、司法警察員が作成した実況見分調書について、被告人の同意がないこと、および調書中に被告人や第三者(A)の指示・説明が記載されているにもかかわらず、その署名押印がなく、かつ公判で直接反対尋問の機会が与えられていないことを理由に、証拠能力を否定して上告した。なお、原審(第一審)では指示・説明を行ったAについて公判廷等で証人尋問を行い、被告人側に反対尋問の機会を与えていた事由も存在する。
あてはめ
実況見分調書は検証調書と実質的に異ならないため、刑訴法321条3項の適用を受ける。本件では作成者が公判で真正作成を供述しており、証拠能力の要件を満たす。また、立会人の指示・説明は、実況見分の対象を特定するための「手段」としての性格を有し、現場の客観的事態を再現するプロセスの一部である。したがって、これを記載した部分は「検証の結果」の一部であって、独立した「供述の録取」とは解されない。ゆえに、321条3項の要件を充足する限り、別途立会人の署名押印や、立会人本人への反対尋問を経ずとも、調書全体を証拠として採証することが許容される。
結論
上告棄却。実況見分調書は刑訴法321条3項により、作成者の真正作成の供述があれば証拠能力が認められ、中の指示説明に署名押印や反対尋問は不要である。
実務上の射程
実況見分調書に321条3項を適用するリーディングケース。ただし、指示・説明が「現場指示(物の場所を示す等)」の範囲を超え、犯行状況等の「供述(内容の真実性が問題となるもの)」に至っている場合は、321条1項各号(3号等)の要件を要するというのが後の判例(最決昭57.9.30等)の流れであり、本判決の射程は「現場指示」的な要素に限定して解釈すべきである。
事件番号: 昭和35(あ)887 / 裁判年月日: 昭和35年9月8日 / 結論: 棄却
一 刑訴第三二一条第三項所定の書面には捜査機関が任意処分として行う検証の結果を記載したいわゆる実況見分調書も包含する。 二 刑訴第三二一条第三項は憲法第三七条第二項前段に違反しない。
事件番号: 昭和47(あ)1876 / 裁判年月日: 昭和48年6月5日 / 結論: 棄却
実況見分調書を刑訴法三二一条三項により証拠に採用したときは、その調書に記載された実況見分の結果を証拠とする趣旨であり、立会人の指示説明をその内容にそう事実認定の証拠として用いる趣旨ではない。