刑訴三六二条にいわゆる「責に帰することができない事由」とは、上訴不能の事由が上訴権者またはその代人の故意または過失にもとずかないことをいうものであり(昭和三一年七月四日第一小法廷決定、刑集一〇巻七号一〇一五頁参照)、所論の如く、当裁判所の裁判宣告期日の通知及び裁判宣告の行われた当時被告人が欧米諸国に旅行中であつたがため裁判宣告の行われた事実を知らず、従つて法廷の期間内に不服の申立をすることができなかつたことは、これに該当する事由にならないことが明らかである。
上訴権回復請求の事由にあたらない事例。
刑訴法362条
判旨
刑訴法362条の「責に帰することができない事由」とは、上訴不能の事由が上訴権者等の故意または過失に基づかないことを指す。海外旅行中に裁判の宣告が行われたことを知らずに上訴期間を徒過したとしても、同条の事由には当たらない。
問題の所在(論点)
上訴権者が海外旅行中に裁判宣告を受けたことにより、法定期間内に不服申し立てができなかった事情が、刑事訴訟法362条にいう「自己又は代人の責めに帰することができない事由」に該当するか。
規範
刑事訴訟法362条に規定される「自己又は代人の責めに帰することができない事由」とは、上訴をすることができない状態(上訴不能)が、上訴権者またはその代人の故意または過失に基づかないことをいう。
重要事実
被告人は、裁判所の裁判宣告期日の通知および裁判宣告が行われた当時、欧米諸国に旅行中であった。被告人はこの旅行のために裁判宣告の事実を知らず、結果として法定の上訴期間内に不服申し立てをすることができなかった。これを受け、被告人が上訴権回復の請求を行った事案である。
事件番号: 昭和42(す)270 / 裁判年月日: 昭和42年9月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上訴権回復の要件である「自己又は代人の責に帰することができない事由」とは、不服申立方法の誤信といった主観的な事情は含まれず、外部的な障害や不可抗力による期間の徒過を指す。 第1 事案の概要:被告人は詐欺被告事件の上告棄却決定を受けたが、異議申立期間を徒過した。被告人は、当該決定に対する不服申立方法…
あてはめ
上訴権回復の要件である「責に帰することができない事由」は、無過失であることを要する。本件において、被告人が裁判宣告時に海外旅行中であったために宣告の事実を知らなかったという事情は、被告人自身の行動の結果であり、客観的に上訴の機会が不当に奪われたものとは認められない。このような事情で期間を徒過することは、上訴権者の不注意または自己都合による管理不足の範疇に含まれるため、故意または過失に基づかない「責に帰することができない事由」には該当しないと評価される。
結論
本件における上訴権回復の請求は棄却される。被告人の海外旅行による裁判宣告の不知は、刑訴法362条の事由に該当しない。
実務上の射程
上訴権回復の要件を厳格に解する実務を裏付ける。特に裁判手続が進行していることを認識し得る状況にある被告人が、自らの判断で海外渡航等を行い連絡を断った場合に、救済が認められないことを示す射程を有する。答案上は、制度の趣旨(法的安定性)から「無過失」が要求されることを導く際に活用できる。
事件番号: 昭和37(し)34 / 裁判年月日: 昭和37年10月9日 / 結論: 棄却
一、原決定において、申立人が上告申立の手続を依頼したAは、刑訴三六二条所定の申立人の代人に該当するとしたのは相当である(後記註参照)。 二、刑訴規則第二二二条所定の判決結果の通知がなされなかつたという一事をもつては、上訴権回復請求の理由とならないことは当裁判所の判例(昭和二九年(し)第三号昭和二九年九月二一日第三小法廷…
事件番号: 昭和30(し)5 / 裁判年月日: 昭和30年2月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上訴権回復の申立てにおいて、被告人が現実に判決の言渡しを知り得なかったとしても、それが被告人やその代理人の責めに帰すべき事由によらないものでない限り、上訴権を回復することはできない。 第1 事案の概要:抗告人は、被告人が刑の言渡しを現実に知り得なかったことについて、被告人及びその代理人の責めに帰す…
事件番号: 昭和31(し)29 / 裁判年月日: 昭和31年7月4日 / 結論: 棄却
一 刑訴第三六二条にいわゆる「責に帰することができない事由」とは、上訴不能の事由が上訴権者またはその代人の故意または過失にもとづかないことをいうものである。 二 被告人が刑訴第三八六条第一号の規定による控訴棄却決定の送達を受けた当時病床にあり、医師より絶対安静を命ぜられていたために異議の申立をすることができなかつたとい…
事件番号: 昭和27(し)50 / 裁判年月日: 昭和27年9月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法362条の「自己の責に帰することができない事由」の存否について、裁判所が期待可能性の有無に言及せずとも、法定期間内に控訴しなかったことが本人の責任によると認定していれば、判例違反には当たらない。 第1 事案の概要:抗告人は、有価証券偽造行使、詐欺、同未遂の各被告事件について第一審判決を受…