判旨
司法警察員による被疑者取調べの際、あらかじめ供述拒否権を告知しなかったとしても、直ちに憲法38条1項に違反するものではなく、その供述の任意性が直ちに否定されることもない。
問題の所在(論点)
司法警察員による取調べにおいて供述拒否権の告知を欠いた場合、その供述から得られた調書の証拠能力は憲法38条1項(自己負罪拒否特権)との関係で否定されるか。また、告知の欠如が直ちに供述の任意性を喪失させるか。
規範
司法警察員による被疑者取調べにおいて、供述拒否権(黙秘権)の事前告知を欠いたとしても、その手続が直ちに憲法38条1項に違反するとはいえない。また、告知を欠いた取調べに基づく供述であっても、そのことのみをもって直ちに当該供述の任意性が失われるものではない(任意性の判断は諸般の事情を総合してなされるべきである)。
重要事実
被告人は司法警察員Aから取調べを受け、その際の内容が供述調書(昭和32年2月2日付)として作成された。当該調書を作成する過程において、司法警察員が被告人に対し、あらかじめ供述拒否権があることを告知した形跡が認められなかった。弁護人は、この告知欠如を理由に当該調書の証拠能力を否定すべきであり、これを証拠とした原判決には憲法38条1項違反等の違法があると主張して上告した。
あてはめ
本件において、被告人の司法警察員に対する供述について、あらかじめ供述拒否権が告知された形跡はない。しかし、憲法38条1項は自己に不利益な供述を強要されない権利を保障するものであり、告知手続の欠如が直ちに強要や不当な圧迫を意味するものではない。また、記録上、被告人の供述に任意性を欠くと認めるべき具体的な資料は存在しない。したがって、告知がなかったという一事をもって、当該供述が憲法に違反して得られたもの、あるいは任意性を欠くものとして証拠能力を否定することはできない。
結論
司法警察員の供述拒否権告知欠如は直ちに憲法違反とはならず、供述の任意性も直ちに失われないため、当該調書の証拠能力を認めた原判決に違法はない。
実務上の射程
憲法上の議論としては、黙秘権告知の欠如が直ちに違憲・証拠排除に直結しないことを示す。ただし、刑事訴訟法198条2項が黙秘権告知を義務付けている現代の訴訟実務においては、告知を欠いた取調べは適正手続(31条)や違法収集証拠排除法則の観点から問題となり得る。本判例は、告知欠如が「直ちに」任意性を否定するものではないという限定的な射程として理解すべきである。
事件番号: 昭和26(あ)4531 / 裁判年月日: 昭和28年5月1日 / 結論: 棄却
警察職員が被疑者を取り調べるにあたつて、あらかじめいわゆる黙祕権または供述拒否権のあることを告知しなかつたからといつて、憲法三八条一項に違反するものでないこと及び右告知のなかつた一事を以つて右取調に基く被疑者の供述が任意性を欠くものと速断することのできないことは当裁判所の判例の趣旨に徴し極めて明かである。(昭和二三年(…