警察職員が被疑者を取り調べるにあたつて、あらかじめいわゆる黙祕権または供述拒否権のあることを告知しなかつたからといつて、憲法三八条一項に違反するものでないこと及び右告知のなかつた一事を以つて右取調に基く被疑者の供述が任意性を欠くものと速断することのできないことは当裁判所の判例の趣旨に徴し極めて明かである。(昭和二三年(れ)第一〇一号同年七月一四日大法廷判決及び昭和二五年(れ)第一〇八二号同年一一月二一日第三小法廷判決参照)。
警察職員による被疑者の取調と黙祕権または供述拒否権の告知の要否
憲法38条1項,刑訴法189条
判旨
警察官による取調の際、あらかじめ黙秘権を告知しなかったとしても直ちに憲法38条1項に違反するものではなく、被告人の供述が当然に任意性を欠くと断定することもできない。
問題の所在(論点)
警察官による取調の際、あらかじめ黙秘権(供述拒否権)を告知しなかった場合に、当該取調が憲法38条1項に違反するか。また、その告知がないことによって供述の任意性が否定されるか。
規範
1. 警察官が被疑者を取り調べるに際し、あらかじめ黙秘権(供述拒否権)を告知しなかったとしても、その一事をもって憲法38条1項に違反するものではない。2. また、告知の欠如のみをもって、当該取調に基づく供述が直ちに任意性を欠くものと認めることはできない。
重要事実
被告人が警察官の取調に対し、本件犯罪事実について自供した。この取調において、警察官は被告人に対しあらかじめ黙秘権があることを告知していなかった。弁護人は、黙秘権告知のない取調が憲法38条1項に違反し、これに基づく自供は証拠能力を欠くと主張して上告した。
あてはめ
最高裁は、過去の判例(昭和23年大法廷判決等)を引用し、黙秘権告知の欠如が直ちに憲法違反となるものではないことを明示した。告知の有無は供述の任意性を判断する上での一事情にはなり得るものの、告知がなかったという事実のみをもって直ちに供述の任意性が欠けると「速断することのできない」と判示し、本件における自供の証拠能力を肯定した判断を維持した。
結論
警察官が黙秘権を告知せずに取調を行ったとしても、憲法38条1項には違反せず、供述の任意性も当然には否定されない。
実務上の射程
本判決は、現行刑訴法198条2項(黙秘権告知義務)制定前の判断を含むものであるが、憲法38条1項が直接的に告知義務までを要請しているわけではないという憲法解釈の限界を示している。現在の答案作成上は、告知義務違反が直ちに違憲・違法(証拠排除)を導くのではなく、あくまで供述の任意性や手続の適正性を判断する要素の一つとして位置づける際に参照すべきである。
事件番号: 昭和26(あ)2650 / 裁判年月日: 昭和27年3月27日 / 結論: 棄却
一 刑訴二〇三条に基く司法警察員の被疑者に対する弁解録取書、又は同二〇四条若しくは同二〇五条に基く検察官の被疑者に対する弁解録取書は、専ら被疑者を留置する必要あるか否かを調査するための弁解録取書であつて、同一九八条所定の被疑者の取調調書ではないから、訴訟法上その弁解の機会を与えるには犯罪事実の要旨を告げるだけで充分であ…
事件番号: 昭和30(あ)586 / 裁判年月日: 昭和30年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】黙秘権の告知がなされなかったとしても、その一事をもって直ちに憲法38条1項に違反するものとはいえない。また、公判調書に告知の記載がないからといって、直ちに告知がなかったと断定することもできない。 第1 事案の概要:被告人が上告審において、公判審理の際などに黙秘権の告知がなされなかったと主張した事案…