一 刑訴二〇三条に基く司法警察員の被疑者に対する弁解録取書、又は同二〇四条若しくは同二〇五条に基く検察官の被疑者に対する弁解録取書は、専ら被疑者を留置する必要あるか否かを調査するための弁解録取書であつて、同一九八条所定の被疑者の取調調書ではないから、訴訟法上その弁解の機会を与えるには犯罪事実の要旨を告げるだけで充分であつて、同一九八条二項所定のように被疑者に対し、あらかじめ、供述を拒むことができる旨を告げなければならないことは要請されていない。 二 弁解録取書であつても、被告人の供述を録取した書面と認められ且つ刑訴三二二条の要件を具備するか又は同三二六条の同意がありさえすれば証拠とすることができること論を俟たない。
一 逮捕後被疑者に弁解の機会を与えるに際していわゆる黙秘権の告知が必要か 二 被疑者の弁解録取書は証拠能力を有するか
刑訴法203条,刑訴法204条,刑訴法205条,刑訴法198条1項2項,刑訴法322条,刑訴法326条
判旨
憲法38条1項は黙秘権の告知義務まで規定しておらず、被疑者の弁解録取手続において黙秘権を告知しなかったとしても直ちに違憲・違法とはならない。
問題の所在(論点)
刑訴法203条から205条に基づく弁解録取の際、黙秘権(自己負罪拒否権)を告知しなかった場合に、憲法38条1項または刑訴法198条2項に照らして違法となるか。また、告知を欠いた弁解録取書の証拠能力が認められるか。
規範
憲法38条1項は「自己に不利益な供述を強要されない」ことを保障するにとどまり、黙秘権の告知を訴訟手続上の義務として規定したものではない。また、刑法203条から205条に基づく弁解録取は、留置の必要性を調査するための手続であり、取調を定めた刑訴法198条とは性質が異なるため、198条2項が定める黙秘権告知の要請は適用されない。
重要事実
被告人らに対する捜査において、司法警察員または検察官が刑訴法203条、204条、205条に基づき弁解録取書を作成した。この際、被疑者に対してあらかじめ供述を拒むことができる旨の告知が行われず、作成された弁解録取書には告知の記載がなかった。弁護人は、この手続が憲法38条1項および刑訴法の規定に違反するとして、証拠能力を争い上告した。
あてはめ
本件における弁解録取手続は、専ら被疑者を留置する必要があるか否かを調査することを目的として行われたものである。これは取調調書の作成を目的とする198条の手続とは別個のものであり、犯罪事実の要旨を告げれば足り、黙秘権の告知は法律上の要件とされていない。したがって、告知の記載を欠いたとしても手続上の違法は認められない。また、当該書面が被告人の供述を録取したものであり、刑訴法322条の要件(任意性等)を満たすか、326条の同意があれば、証拠として採用することに支障はない。
結論
弁解録取の際の黙秘権告知は憲法上も刑訴法上も義務付けられておらず、告知を欠いたとしても直ちに違憲・違法ではないため、証拠能力は認められる。
実務上の射程
弁解録取手続(203条等)において、198条2項の準用がないことを明示した判例である。もっとも、実務上は弁解録取においても黙秘権の告知が行われることが通例であり、本判決はあくまで告知欠如のみをもって当然に証拠能力を否定するものではないという限界事例としての意義を持つ。
事件番号: 昭和27(あ)772 / 裁判年月日: 昭和28年7月14日 / 結論: 棄却
刑訴二〇三条に基く司法警察員の被疑者に対する弁解録取書は、専ら被疑者を留置する必要あるか否かを調査するための弁解を録取する書面であつて、同一九八条の被疑者の取調調書ではないから、刑訴法上その弁解の機会を与えるには犯罪事実の要旨を告げれば充分であつて、同一九八条二項に従いあらかじめ被疑者に供述を拒むことができる旨を告げる…