判旨
刑事訴訟法52条は、公判調書に記載された事項についてのみ絶対的証明力を認め、記載のない事項については反証を禁止するものではない。第一審が公判調書に記載のない事実を認めても、直ちに同条の規定に違反するものではない。
問題の所在(論点)
公判調書に記載がない事実を裁判所が認定することは、公判調書の絶対的証明力を定める刑事訴訟法52条に違反するか。
規範
刑事訴訟法52条の趣旨は、公判調書に記載されたものについては反証を許さないという「絶対的証明力」を認める点にある。しかし、同条は公判調書に記載のない事実の存否についてまで証拠能力や証明力を限定するものではなく、記載がないことをもって直ちにその事実がなかったと擬制するものではない。
重要事実
被告人が、第一審において憲法37条2項が保障する証人尋問の機会を与えられなかったと主張し、原審(二審)が公判調書の記載等に基づき、第一審裁判所は証人尋問の機会を与えたものであると認定した事案。弁護人は、第一審の公判調書の記載と原審の事実認定との齟齬を理由に、憲法違反および訴訟手続の違法を主張して上告した。
あてはめ
刑事訴訟法52条が排斥するのは、公判調書に記載された事項と異なる事実を認定すること(反証)である。本件において、第一審の公判調書に特定の事項が「記載されていない」としても、裁判所が他の証拠や記録に基づき、当該公判期日において証人尋問の機会が提供された等の事実を認定することは妨げられない。したがって、公判調書に記載がないことをもって、その事実が存しなかったと認定しなければならないわけではなく、原審が実質的に尋問機会の付与を認めた過程に同条違反の違法はない。
結論
第一審の公判調書に記載がない事実を認めても刑事訴訟法52条に違反しない。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
公判手続の適法性を争う場面で、公判調書の「記載の欠落」を理由に手続の違憲・違法を主張する際の反論として機能する。52条の絶対的証明力は「記載された事項」の正確性を担保するものであり、「記載のない事項」の不存在を確定させるものではないという限定的な解釈を示す際に用いる。
事件番号: 昭和26(あ)5056 / 裁判年月日: 昭和28年4月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】原審において主張されず、かつ判断もされていない事実に基づき、第一審の手続法違反を上告理由として主張することは、実質的に適法な上告理由とはならない。 第1 事案の概要:被告人側が上告を提起し、憲法違反および判例違反を主張した。しかし、第一点として主張された第一審の手続法違反(憲法違反の形式)について…