控訴審が第一審判決の法令の適用に誤りありとしてこれを破棄自判するにあたり、第一審判決の認定した事実に法令を適用したのみでその証拠を引用せずまたはその証拠の標目を掲げていないとしても、控訴審は第一審判決挙示の同一の証拠を援用した趣旨と解するのを相当とする。
控訴審が第一審判決の法令の適用に誤りありとして破棄自判した場合と第一審判決の証拠の援用。
刑訴法400条但書,刑訴法335条1項,刑訴法380条
判旨
控訴裁判所が第一審判決の事実認定を維持したまま法令適用の誤りを理由に自判する場合、判決文に証拠の標目を直接掲げていなくても、第一審判決が掲げた証拠を援用した趣旨と解し得れば適法である。
問題の所在(論点)
控訴裁判所が第一審判決の事実認定を引用して自判(破棄自判)する場合に、判決書において改めて証拠の標目を掲示しなければならないか(刑訴法335条1項、404条の要否)。
規範
控訴裁判所が第一審判決の認定した事実をそのまま維持し、単に適用法令の誤りを是正して自判する場合において、判決文中に証拠の引用や標目の記載を欠いていたとしても、それが第一審判決の挙示する同一の証拠を援用する趣旨であることが客観的に明らかであれば、刑事訴訟法335条1項等の証拠表示に関する規定に違反しない。
重要事実
被告人は市議会議員選挙への立候補届出前、当選目的で選挙人に現金を供与したとして公職選挙法違反で起訴された。第一審は、事実は認定しつつも適用条文を誤っていた。これに対し控訴審は、第一審の認定事実を前提に、法令適用の誤りを理由に第一審判決を破棄し自ら判決を下した(刑訴法400条但書)。その際、控訴審判決において証拠の引用や標目の掲示を直接行わなかったため、被告人が判決の成立手続の違法を訴えて上告した。
あてはめ
本件において原審(控訴審)は、第一審が認定した「立候補届出前の金員供与」という事実をそのまま維持している。その上で、第一審が適用した公職選挙法221条3項を同条1項1号に改めるという「法令適用の是正」のみを行っている。このような場合、原判決が証拠を個別に掲げていなくとも、第一審が掲示した同一の証拠をそのまま証拠能力および証明力の根拠として採用する趣旨であることは明らかといえる。したがって、実質的に証拠の裏付けがある判決として、法が求める証拠表示の要件を満たしていると解される。
結論
原判決に刑事訴訟法上の違法はなく、証拠を直接掲げていなくても第一審の証拠を援用した趣旨と解されるため、上告は棄却される。
実務上の射程
第一審の事実認定を前提とする破棄自判(刑訴法400条但書)において、判決書の簡略化が認められる限界を示したもの。実務上は第一審の証拠関係がそのまま維持される場合に限り、重複した証拠の羅列を省略できるという解釈指針として機能する。
事件番号: 昭和34(あ)2317 / 裁判年月日: 昭和35年3月17日 / 結論: 棄却
控訴裁判所が何ら事実の取調をしないで第一審判決より重い刑を科しても(本件は第一審が公職選挙法第二五二条第三項を適用したのを第二審でみずから何ら事実の取調をすることなく同規定を適用しないことにした場合である。)刑訴第四〇〇条但書に違反しない。