被告人に対する黙否権の告知は、刑訴規則四四条によれば公判調書の必要的記載事項ではないのであるから、所論第一審第一回公判調書に右告知の記載がないからといつて、直ちにその手続が行われなかつたものということはできない。
公判調書に黙否権の告知の記載がない場合と右告知の有無。
刑訴法48条,刑訴法291条,刑訴規則44条,刑訴規則197条
判旨
被告人に対する黙秘権の告知は、公判調書の必要的な記載事項ではない。したがって、公判調書にその記載がないことをもって、直ちに黙秘権の告知手続が行われなかったと解することはできない。
問題の所在(論点)
被告人に対する黙秘権の告知は公判調書の必要的記載事項にあたるか。また、調書に記載がない場合に、直ちに手続の不実施が認められるか(刑訴規則44条、刑訴法291条4項)。
規範
被告人に対する黙秘権の告知(刑訴法291条4項)の有無については、刑訴規則44条の規定に照らし、公判調書の必要的記載事項には該当しない。したがって、公判調書上の記載の欠如が、直ちに当該手続の不実施を意味するものではない。
重要事実
被告人が第一審における訴訟手続の違反を主張して上告した事案。上告人は、第一審の第一回公判調書に被告人に対する黙秘権告知の事実が記載されていないことを根拠として、適法な告知手続が行われなかったと主張した。
あてはめ
刑事訴訟規則44条は、公判調書に記載すべき事項を列挙しているが、被告人に対する黙秘権の告知はこれに含まれていない。公判調書の記載事項ではない以上、調書に記載がないことをもって、当該告知手続を欠いた違法な公判手続であると断定することはできない。記録上、他に手続不実施を裏付ける事由がない限り、記載の欠如のみで違法を認めることは不適切である。
結論
被告人に対する黙秘権の告知は公判調書の必要的記載事項ではなく、記載がないからといって直ちに手続が不実施であったとはいえない。本件上告は理由がなく、棄却される。
実務上の射程
公判手続の適法性を争う際、公判調書の「記載の欠如」が直ちに「不実施」を意味するのは、必要的記載事項(刑訴規則44条1項各号等)に限られる。黙秘権告知のような必要的記載事項外の手続については、調書以外の資料も含めた立証が必要となる。
事件番号: 昭和30(あ)965 / 裁判年月日: 昭和30年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公判調書に裁判官による黙秘権の告知の記載がないことのみをもって、直ちに黙秘権告知の事実がなかったと断定することはできない。 第1 事案の概要:被告人が、第一審の公判手続において裁判官による黙秘権の告知がなされなかったと主張し、その根拠として公判調書に告知の事実が記載されていないことを挙げ、憲法違反…