判旨
業務上過失致死傷罪における注意義務発生の原因となる事実は、証拠によって認定し得る限り、必ずしも科学的鑑定等の科学的証拠により認定することを要しない。
問題の所在(論点)
業務上過失罪の注意義務発生の基礎となる事実を認定するにあたり、科学的鑑定等の科学的証拠が不可欠か。また、被告人が申請した証人や鑑定を裁判所が不必要として却下することは憲法37条2項に違反するか。
規範
業務上過失罪の成否を判断するための注意義務発生の原因となる事実は、証拠によって認定することを要するが、その証明方法は自由な心証に委ねられており、必ずしも科学的鑑定等の科学的証拠による証明を必要とするものではない。また、憲法37条2項は不必要な証人まで喚問すべきことを義務付けるものではなく、裁判所は必要性がないと認める証拠申請を却下することができる。
重要事実
被告人は、業務上の過失により死傷罪に問われた。弁護人は、業務上の注意義務が発生した原因となる事実について、科学的鑑定等の科学的証拠によらずに認定した原判決には憲法違反や事実誤認がある旨を主張した。また、原審において弁護人が申請した3名の証人尋問および鑑定の申請を「必要がない」として却下したことは、憲法37条2項に反する審理不尽の違法があると主張して上告した。
あてはめ
注意義務発生の原因事実は証拠によって明らかにされるべきものであるが、その具体的手段として科学的証拠が必須とされる法的根拠はない。本件の事実関係において、科学的鑑定を欠いたとしても他の証拠により事実認定が可能であれば、注意義務違反による業務上過失の罪責を認めることは相当である。また、証拠調の必要性の判断は裁判所の裁量に属し、原審が申請を不必要として却下した措置に憲法違反の瑕疵は認められない。
結論
業務上の注意義務発生の原因事実は必ずしも科学的証拠により認定する必要はなく、裁判所が必要性がないと判断した証拠申請を却下しても、憲法37条2項には違反しない。
実務上の射程
裁判所が事実認定を行う際の証拠選択の自由を認めた判例。実務上、死傷の原因等の専門的事項であっても、鑑定が必須ではなく周辺事実からの推認が可能であることを示す。証拠調べ申請の却下に関する裁量の限界を論じる際の論拠として使用できる。
事件番号: 昭和29(あ)3470 / 裁判年月日: 昭和31年11月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上の注意義務に違反して事故を起こした被告人に対し、具体的な過失の存在を認めた原審の判断を正当として上告を棄却したものである。 第1 事案の概要:被告人が業務中に事故を起こした事案。原審は被告人に業務上の過失があったと認定したが、弁護人は事実誤認および法令違反を理由として上告を申し立てた。なお、…