業務上過失致死罪の認定について、原判決の判示は、要するに自白の外必要とされる補強証拠は、当該事件の客観的事実関係についてこれを認むべき証拠があれば十分で、被告人の過失の有無という主観的要件についてはその必要がないというに帰するから、同趣旨の当裁判所大法廷判決(判例集四巻一一号二四〇二頁以下)に徴し、原判決には、所論の憲法三八条三項の違反並びに判例違反(昭和二三年(れ)第七七号同二四年五月一八日大法廷判決、判例集三巻六号七三四頁)は認められない。
業務上過失致死罪の認定と補強証拠の範囲。
憲法38条3項,刑訴法319条2項,刑法211条
判旨
自白の補強証拠(憲法38条3項、刑訴法319条2項)は、当該事件の客観的事実関係を認めるに足りるものであれば足り、被告人の過失の有無という主観的要件についてまで必要とされるものではない。
問題の所在(論点)
自白の補強証拠(憲法38条3項)として、犯罪の主観的要件(被告人の過失の有無)についても独自の証拠を必要とするか。
規範
自白を補強する証拠は、犯罪事実の客観的部分(罪体)についてその真実性を保障するに足りるものであれば十分である。したがって、被告人の過失のような主観的構成要件要素については、独自の補強証拠を必要とせず、被告人の自白のみによって認定することが可能である。
重要事実
被告人は、停車中の貨物自動車の通過を待たず、車道の左側を進行するという本来の通行区分に従わずに、小型車の右後方を迂回して都電軌道敷地上を前進した。その際、一時停車して対向車の状況を注視し、必要に応じて警音器を鳴らすなどの安全確認義務を怠ったことにより、事故を発生させたとして起訴された。被告人は自白していたが、弁護人は過失の認定に補強証拠を欠くこと等を理由に上告した。
あてはめ
本件では、事故の発生という客観的事実関係(罪体)については証拠が存在する。被告人が本来の通行区分を外れて軌道敷地上を前進した点や、一時停車・注視・警音器吹鳴といった具体的注意義務を怠ったという「過失」の事実は、犯罪の主観的な評価に関わる事由である。判例の趣旨に照らせば、このような主観的要件については自白があれば足り、補強証拠は不要である。したがって、原判決が自白に基づき過失を認定したことに憲法違反や判例違反の不備はない。
結論
被告人の過失の有無という主観的要件については、自白のほかに補強証拠を必要としない。
実務上の射程
過失犯における過失のみならず、故意(殺意や不法領得の意思等)についても同様に補強証拠は不要とされる。答案上では、補強証拠の要否が問題となる際、実体真実主義と誤判防止の観点から「罪体」の範囲を確定し、主観的要素をそこから除外する論証の根拠として用いる。
事件番号: 昭和35(あ)887 / 裁判年月日: 昭和35年9月8日 / 結論: 棄却
一 刑訴第三二一条第三項所定の書面には捜査機関が任意処分として行う検証の結果を記載したいわゆる実況見分調書も包含する。 二 刑訴第三二一条第三項は憲法第三七条第二項前段に違反しない。
事件番号: 昭和28(あ)5051 / 裁判年月日: 昭和29年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白が存在する場合、実況見分書等の客観的証拠が自白の真実性を担保する補強証拠となり得る。自白とこれら補強証拠を総合して犯罪事実を認定することは、憲法上の証拠法則に反しない。 第1 事案の概要:被告人が犯行を認める自白をしていた。第一審判決は、この自白に加えて、犯行現場や状況を記録した実況見…