弁護人の上告趣意は、職業安定法六三条二号が罪の内容を定めるのに「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で」といつているのは、罪となるべき行為の定め方があいまいであつて、罪刑法定主義を規定した憲法三一条に違反すると主張する。しかし、第一審判決の確定した事実によれば、本件は、すべて売春を業とする接客婦の雇用をあつ旋した場合であり、およそ売春を業とすることが職業安定法六三条二号にいわゆる公衆衛生、公衆道徳上有害な業務に該当することは明白であるから、右の規定は、これを本件に適用する限りにおいては、何ら明確を欠くところはない。従つて、所論違憲の主張は、その前提を欠き刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
違憲の主張がその前提を欠く事例。―職業安定法第六三条第二号と憲法第三一条
憲法31条,職業安定法63条2号,刑訴法405条1項
判旨
職業安定法63条2号の「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務」という規定は、売春を業とする接客婦の雇用をあっせんする行為に適用される限り、憲法31条の罪刑法定主義(明確性の原則)に違反しない。
問題の所在(論点)
職業安定法63条2号にいう「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務」という規定は、その内容が不明確であり、憲法31条の罪刑法定主義に違反するか。
規範
刑罰法規の文言が憲法31条の罪刑法定主義に違反するか否かは、その規定が当該事案に適用される限度において、一般人の理解により基準が明確であるかによって判断される。規定が抽象的であっても、具体的な行為が明らかに当該用語の意義に含まれる場合には、明確性を欠くとはいえない。
重要事実
被告人は、売春を業とする接客婦の雇用をあっせんした。検察官は、この行為が職業安定法63条2号に規定する「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的」で行われた労働者供給等に該当するとして起訴した。弁護人は、同条の規定があいまいで罪刑法定主義に反すると主張して上告した。
あてはめ
本件において被告人があっせんした「売春を業とすること」は、社会通念に照らせば、職業安定法63条2号が定める「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務」に該当することが明白である。このように、特定の具体的行為が明らかに禁止の範囲に含まれると判断できる場合、その規定は本件に適用される限りにおいて、処罰の範囲を画定する基準として十分な明確性を有しているといえる。
結論
職業安定法63条2号の規定は、本件のような売春のあっせん行為に適用される限り、明確性を欠くところはなく、憲法31条に違反しない。
実務上の射程
法令の文言が抽象的であっても、具体的な被告人の行為がその中核的な適用範囲に属する場合には、明確性の原則違反(違憲)の主張を排斥する「限定的な合憲判断」の手法を示す。答案上は、罪刑法定主義の明確性の原則が問題となる場面で、一般人の判断基準や対象行為の明白性を論じる際の参照判例となる。
事件番号: 昭和30(あ)1651 / 裁判年月日: 昭和30年12月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】職業安定法63条2号にいう「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務」に就かせる目的での職業紹介とは、形式的な職種名に関わらず、実態として職業的売淫の業務に就かせる約旨で斡旋を行うことを指す。 第1 事案の概要:被告人は、8名の婦女子を「特殊料理店の従業婦」という名義で募集した。しかし、その実態は、何れも…