判旨
法律の附則により適用が除外されている改正刑法の保護観察規定を誤って適用した判決は、法令違反であり、かつ被告人に遵守義務等の負担を課す点で「被告人のため不利益」な裁判に該当する。
問題の所在(論点)
改正法の附則により適用が否定されているにもかかわらず、執行猶予に保護観察を付した確定判決につき、法令違反の有無および刑事訴訟法458条1号但書の「被告人のため不利益」な裁判といえるか。
規範
改正法律の附則により、施行前の犯罪(施行後の犯罪との併合罪を除く)について改正後の保護観察規定(刑法25条の2第1項前段)の適用が排除されている場合、当該犯罪に対し保護観察を付することはできない。また、本来付すことができない保護観察を付した判決は、被告人に法定事項の遵守義務を課し、違反時に執行猶予取消しのリスクを負わせるものであるから、刑事訴訟法458条1号但書の「被告人のため不利益」な裁判にあたる。
重要事実
被告人A及びBは、昭和29年4月から6月にかけて共謀の上、詐欺罪を犯した。原審は、昭和29年7月1日に施行された改正刑法(保護観察規定の新設)を適用し、両名に懲役刑の執行猶予とともに保護観察を付する旨の判決を言い渡し、確定した。しかし、当該改正法の附則2項は、施行前の犯罪(施行後の犯罪との併合罪ではない場合)については保護観察規定を適用しない旨を定めていた。
あてはめ
本件各犯罪はすべて改正刑法の施行前に行われており、施行後の犯罪との併合罪の関係にもない。したがって、附則2項に基づき、刑法25条の2第1項前段の規定は適用されない。にもかかわらず保護観察を付した原判決には法令違反が認められる。また、保護観察に付された者は遵守義務を負い、これに違反すれば執行猶予が取り消される不利益を被る地位に置かれるため、本件は被告人にとって不利益な裁判であるといえる。
結論
原判決には法令違反があり、かつ被告人のため不利益であるため、非常上告は理由がある。原判決を破棄し、保護観察を付さない執行猶予判決を自判する。
事件番号: 昭和29(さ)5 / 裁判年月日: 昭和29年12月3日 / 結論: 破棄自判
有罪判決において刑の執行猶予を言渡すに当り、保護観察に付することを得ない場合であるにかかわらず、併せて保護観察に付する旨言渡したときは、刑訴第四五八条第一号但書にいう「原判決が被告人のため不利益であるとき」に当る。
実務上の射程
非常上告における「被告人のため不利益」の判断基準として重要である。実体的には不当な負担を課す処分が法令上の根拠を欠く場合に、その手続き的・実体的な不利益性を肯定するロジックとして活用できる。
事件番号: 昭和29(さ)4 / 裁判年月日: 昭和29年11月25日 / 結論: 破棄自判
昭和二九年法律五九号の附則二項は、同法施行前の犯罪については、同法施行後の犯罪と併合罪に当らない限り、右刑法二五条ノ二、一項前段の改正規定の適用がない旨を規定しているから、右法律五七号施行前のみの犯罪にかかる本件被告事件につき刑の執行猶予を言い渡す場合において、被告人を保護観察に対することを得ないものであることもまた明…
事件番号: 昭和29(さ)6 / 裁判年月日: 昭和29年12月14日 / 結論: 破棄自判
有罪判決において刑の執行猶予を言渡すに当り、保護観察に付すことを得ない場合であるにかかわらず、併せて保護観察に付する旨言渡したときは、刑訴法第四五八条第一号但書にいう「原判決が被告人のため不利益であるとき」に当る。
事件番号: 昭和25(さ)37 / 裁判年月日: 昭和28年7月18日 / 結論: 棄却
被告人の生存していることを前提としてなされた第二審判決に対し、その判決前に被告人が既に死亡していたことを主張し、これを前提として非常上告をすることは許されない。