被告人の生存していることを前提としてなされた第二審判決に対し、その判決前に被告人が既に死亡していたことを主張し、これを前提として非常上告をすることは許されない。
第二審判決前に既に被告人が死亡していたことを主張して非常上告をすることができるか
旧刑訴法516条(現行刑訴法454条),旧刑訴法365条1項2号(現行刑訴法339条1項3号)
判旨
非常上告において「事件の審判が法令に違反したこと」とは、原判決の認定した事実を前提として法令の適用を誤った場合を指し、法令適用の前提となる事実の誤認は理由にならない。被告人の死亡という前提事実の誤認も、それ自体が手続を構成する形式的事実でない限り、非常上告の対象とはならない。
問題の所在(論点)
被告人が控訴審判決前に死亡していたという「法令適用の前提となる事実の誤認」がある場合、刑事訴訟法454条の「事件の審判が法令に違反したこと」に該当するか。
規範
刑事訴訟法454条にいう「事件の審判が法令に違反したこと」とは、法令の解釈適用の統一という制度目的に鑑み、原判決が確定した事実を基礎として法令の適用を誤った場合を指す。法令適用の前提となる事実(被告人の生年月日や死亡の有無等)の誤認はこれに含まれない。ただし、最高裁判所が事実の取調をなし得るのは、弁論の公開の有無といった「手続そのものを構成する形式的事実」に限られる。
重要事実
被告人Aは詐欺横領罪で懲役1年の判決を受け、控訴。控訴審において公判期日の通知が同居親族に送達されたが、Aは出頭せず、裁判所は正当な理由なき欠席として被告人陳述なしで審理を終結し、懲役1年の控訴棄却判決を言い渡した。判決は確定したが、実際には控訴審判決前の時点でAは既に死亡していた。検事総長は、死亡した者に対し判決を言い渡したことは法令違反であるとして、本件非常上告を申し立てた。
あてはめ
非常上告は法令解釈の統一を目的とするものであり、個別の事実認定の誤りを正す救済制度ではない。本件において、控訴審がAを生存しているものとして判決したことは、記録上の資料に基づく限り法令違反ではない。被告人が死亡していたか否かは法令適用の前提事実にすぎず、これを確認するために最高裁が証拠調べを行うことは、確定裁判の効力を著しく不安定にする。また、死亡の事実は「手続そのものを構成する形式的事実」には当たらないため、最高裁による事実取調の対象外である。したがって、前提事実の誤認を理由とする本件申立ては失当である。
結論
本件非常上告は理由がないため、棄却する。
実務上の射程
非常上告の対象が「原判決が認定した事実を前提とする法令適用の誤り」に限定されることを示した重要判例である。答案上は、被告人死亡後の判決といった一見重大な瑕疵であっても、それが事実誤認に基づくものである限り、非常上告ではなく再審等の他手続によるべきであるとの論理構成に用いる。
事件番号: 昭和25(さ)40 / 裁判年月日: 昭和27年4月23日 / 結論: 棄却
非常上告は、法令の適用の誤りを正し、もつて、法令の解釈適用の統一を目的とするものであつて、個々の事件における事実認定の誤りを是正して被告人を救済することを目的とするものではない。されば、実体法たると手続法たるとを問わず、その法令の解釈に誤りがあるというのでなく、単にその法令適用の前提事実の誤りのため当然法令違反の結果を…
事件番号: 昭和28(さ)2 / 裁判年月日: 昭和28年4月28日 / 結論: 棄却
累犯加重の事由とされた前科に関し、確定判決に事実認定上の違法(審理不尽等)があることを主張し、かつこれを前提として同判決における累犯加重の違法を主張することは、非常上告の理由とならない。
事件番号: 昭和25(さ)38 / 裁判年月日: 昭和26年7月6日 / 結論: 棄却
本件非常上告の理由とするところは、要するに昭和二四年五月二八日倉吉簡易裁判所の言渡した判決において被告人は当時満一八才未満の少年であつたのに拘らず満一八才以上の者と誤認したという事実認定非難を前提として手続違背を主張するものであつて、非常上告の理由とならないものである(昭和二五年(さ)第三九号同二六年一月二三日第三小法…
事件番号: 昭和25(さ)30 / 裁判年月日: 昭和26年7月6日 / 結論: 棄却
所論窃盗被告事件の確定判決は裁判時において既に成年に達していた被告人に対し少年法を適用したことにはなるがそれは同裁判所が前記のように被告人が生年月日を偽つていたために被告人が成年であつたにかかわらずこれを少年と誤認したことに基因するのである。而して非常上告は抽象的に法規適用の誤を正すことを目的とするものであつて個々の裁…