非常上告は、法令の適用の誤りを正し、もつて、法令の解釈適用の統一を目的とするものであつて、個々の事件における事実認定の誤りを是正して被告人を救済することを目的とするものではない。されば、実体法たると手続法たるとを問わず、その法令の解釈に誤りがあるというのでなく、単にその法令適用の前提事実の誤りのため当然法令違反の結果を来す場合のごときは、法令の解釈適用を統一する目的に少しも役立たないから、刑訴四五四条にいわゆる「事件の審判が法令に違反したこと」に当らないと解するのを相当とする。そして、本件では、本案事件の公訴提起当時においては勿論その第一審判決当時においても、被告人の年齢が二〇歳以上であると認定されていたことは記録上明白なのであるから、たとえ、その判決後になつて被告人が実際は少年であつたことが判明したとしても検察官が公訴提起前あらかじめ事件を家庭裁判所に送致する手続を執らなかつたのを目して、公訴提起の手続規定の解釈を誤りその結果その手続規定に違反したとはいえないし、また、第一審裁判所が公訴提起手続違反を理由として公訴棄却の判決をしないで被告人を懲役一年但し三年間その刑の執行を猶予する旨の判決を言渡したのを、まさしくその審判法令に違反した場合に当るものということはできない。
刑訴第四五四条にいわゆる「事件の審判が法令に違反したこと」の意義と違反したことにならない一事例
刑訴法454条,刑訴法460条
判旨
非常上告の理由となる「事件の審判が法令に違反したこと」(刑訴法454条)とは、法令の解釈に誤りがある場合を指し、法令適用の前提となる事実認定の誤りに基づく法令違反は含まれない。
問題の所在(論点)
確定判決後に、法令適用の前提となる事実(被告人の年齢)の誤認が判明した場合、それが「事件の審判が法令に違反したこと」(刑訴法454条)として非常上告の理由になるか。
規範
非常上告制度は法令の解釈適用の統一を目的とするものであり、個別の事実認定の誤りを是正して被告人を救済する制度ではない。したがって、実体法・手続法を問わず、法令自体の解釈に誤りがあるのではなく、単に法令適用の前提事実の誤りによって法令違反の結果を招いたにすぎない場合は、刑訴法454条の「事件の審判が法令に違反したこと」には当たらない。
重要事実
被告人が検挙当時、年齢を22歳と称したため、検察官は成人として公訴を提起し、裁判所も成人として懲役1年(執行猶予3年)の有罪判決を言い渡し、判決が確定した。しかし、確定後の調査により、被告人は公訴提起当時、実際には18歳未満の少年であったことが判明したため、検察官が少年法上の家庭裁判所送致手続を執らずに起訴したこと等が法令違反に当たるとして、検事総長が非常上告を申し立てた。
あてはめ
本件では、公訴提起時および第一審判決時において、記録上、被告人が20歳以上であると認定されていた。判決後に実際は少年であったことが判明したとしても、認定された前提事実に即してなされた公訴提起や裁判所の審判は、法令(少年法等)の「解釈」を誤ったものとはいえない。したがって、単なる前提事実の誤認によって生じた手続上の瑕疵は、法令の解釈適用の統一を目的とする非常上告の対象となる法令違反には該当しないと解される。
結論
本件非常上告は、法令適用の前提事実の誤りをいうものであって法令の解釈の誤りをいうものではないから、刑訴法454条にいう法令違反には当たらず、棄却されるべきである。
実務上の射程
非常上告が「法令の解釈適用の統一」という純粋な法律審の性質を持つことを宣言した重要判例である。答案上は、事実誤認を理由とする非常上告の可否が問われた際、本判例の規範を引用し、当該違反が「純粋な解釈の誤り」か「事実誤認に起因するもの」かを区別する際の基準として用いる。
事件番号: 昭和25(さ)33 / 裁判年月日: 昭和26年6月29日 / 結論: 棄却
本件非常上告の理由とするところは、要するに昭和二四年一二月二八日名古屋簡易裁判所が言渡した判決において被告人は当時満一八才未満の少年であつたのに拘らず、満一八才以上の者と誤認したという事実認定非難を前提として手続違背を主張するものであつて、非常上告適法の理由とならないものである(昭和二五年(さ)第三九号同二六年一月二三…
事件番号: 昭和25(さ)38 / 裁判年月日: 昭和26年7月6日 / 結論: 棄却
本件非常上告の理由とするところは、要するに昭和二四年五月二八日倉吉簡易裁判所の言渡した判決において被告人は当時満一八才未満の少年であつたのに拘らず満一八才以上の者と誤認したという事実認定非難を前提として手続違背を主張するものであつて、非常上告の理由とならないものである(昭和二五年(さ)第三九号同二六年一月二三日第三小法…
事件番号: 昭和25(さ)30 / 裁判年月日: 昭和26年7月6日 / 結論: 棄却
所論窃盗被告事件の確定判決は裁判時において既に成年に達していた被告人に対し少年法を適用したことにはなるがそれは同裁判所が前記のように被告人が生年月日を偽つていたために被告人が成年であつたにかかわらずこれを少年と誤認したことに基因するのである。而して非常上告は抽象的に法規適用の誤を正すことを目的とするものであつて個々の裁…
事件番号: 昭和26(さ)4 / 裁判年月日: 昭和27年12月11日 / 結論: 破棄自判
一 第一審判決が被告人は昭和六年一一月二六日生であることを認定し昭和二六年一月一〇日の判決宣告当時二〇歳未満であることを明らかにしながら、被告人に対し有期懲役刑をもつて処断するにあたり定期刑を科し、控訴審においてこの点を看過して控訴棄却の判決をした場合は、原判決に少年法第五二条第一項に違反した違法があり、非常上告は理由…