昭和二九年法律五九号の附則二項は、同法施行前の犯罪については、同法施行後の犯罪と併合罪に当らない限り、右刑法二五条ノ二、一項前段の改正規定の適用がない旨を規定しているから、右法律五七号施行前のみの犯罪にかかる本件被告事件につき刑の執行猶予を言い渡す場合において、被告人を保護観察に対することを得ないものであることもまた明らかである。従つて、原判決が本件について右刑法二五条ノ二、一項の前段の規定を適用したことは右附則の規定に違反したものであり、本件非常上告は理由があるものといわなければならない。そして、保護観察に付された者は、法定の事項を遵守しなければならないものであつて、遵守すべき事項を遵守せず、その情状重きときは、刑の執行猶予の言渡を取消されうるものであるから、原判決は被告人のため不利益であることは明らかであり、従つて、刑訴四五八条一項但書により原判決を破棄して被告事件につき更に判決をするものとする。
刑法第二五条の二を適用できない場合これを適用した判決の違法と非常上告
刑法25条,刑法25条の2,刑法の一部改正法律(昭和29年法律57号)附則2項,右法律の施行期日を定める政令(昭和29年政令167号),刑訴法454条,刑訴法458条
判旨
改正刑法の附則により保護観察を付すことができない事案において、誤って保護観察付執行猶予を言い渡した判決は、遵守事項違反による猶予取消しのリスクを被告人に課すものであるから、被告人にとって不利益な法令違反にあたり、非常上告の理由となる。
問題の所在(論点)
改正刑法の附則により保護観察を付し得ない事案において、誤って保護観察付執行猶予を言い渡した原判決が、「被告人のため不利益」な法令違反として非常上告の対象となるか。
規範
改正刑法の施行前にのみ犯された犯罪について、同法附則に基づき保護観察の適用がないにもかかわらず、誤って刑法25条の2第1項を適用し保護観察に付した判決は、法令に違反する。このような判決は、被告人が遵守事項違反によって執行猶予を取り消される法的地位に置かれることから、「被告人のため不利益である」(刑訴法458条1号但書)と認められる。
事件番号: 昭和29(さ)5 / 裁判年月日: 昭和29年12月3日 / 結論: 破棄自判
有罪判決において刑の執行猶予を言渡すに当り、保護観察に付することを得ない場合であるにかかわらず、併せて保護観察に付する旨言渡したときは、刑訴第四五八条第一号但書にいう「原判決が被告人のため不利益であるとき」に当る。
重要事実
被告人は、昭和28年10月に7回の窃盗を犯した。昭和29年7月1日、洲本簡裁は懲役10月、執行猶予3年の判決を言い渡す際、同日に施行された改正刑法25条の2を適用し、被告人を保護観察に付した。しかし、同改正法の附則2項は、施行前の犯罪(施行後の犯罪との併合罪を除く)については同条1項前段の適用がない旨を規定していた。
あてはめ
本件犯行はすべて改正刑法の施行前に行われており、附則2項により保護観察の対象外である。それにもかかわらず原判決が保護観察を付したことは明白な法令違反である。保護観察に付された者は、法定の遵守事項を守らねばならず、これに違反して情状が重い場合には執行猶予を取り消される法的リスクを負担することになる。したがって、本件の法令違反は被告人の権利を制限し義務を課すものであり、被告人にとって不利益なものであるといえる。
結論
原判決のうち保護観察を付した部分は不利益な法令違反であるため、非常上告は理由がある。原判決を破棄し、保護観察を付さない執行猶予判決を自判する。
実務上の射程
実務上、非常上告において「被告人のため不利益」か否かは、単なる刑の軽重だけでなく、執行猶予の取消しリスクのような法的地位の悪化も含まれることを示す。答案上は、法令違反が形式的なものに留まらず、被告人に実質的な負担を課しているかを検討する際の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和29(さ)3 / 裁判年月日: 昭和29年9月17日 / 結論: その他
刑法第二五条第二項によれば、前に禁錮以上の刑に処せられたことがあつても、その執行を猶予された者が、一年以下の懲役又は禁錮の言渡を受け情状特に憫諒すべきものであるときは再び執行を猶予することができるのであるが、一年を超える懲役又は禁錮の言渡を受けたときは、その執行を猶予することはできないのである。しかるに原判決は前示の如…
事件番号: 昭和30(さ)1 / 裁判年月日: 昭和30年4月22日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】法律の附則により適用が除外されている改正刑法の保護観察規定を誤って適用した判決は、法令違反であり、かつ被告人に遵守義務等の負担を課す点で「被告人のため不利益」な裁判に該当する。 第1 事案の概要:被告人A及びBは、昭和29年4月から6月にかけて共謀の上、詐欺罪を犯した。原審は、昭和29年7月1日に…
事件番号: 昭和29(さ)6 / 裁判年月日: 昭和29年12月14日 / 結論: 破棄自判
有罪判決において刑の執行猶予を言渡すに当り、保護観察に付すことを得ない場合であるにかかわらず、併せて保護観察に付する旨言渡したときは、刑訴法第四五八条第一号但書にいう「原判決が被告人のため不利益であるとき」に当る。
事件番号: 昭和28(さ)2 / 裁判年月日: 昭和28年4月28日 / 結論: 棄却
累犯加重の事由とされた前科に関し、確定判決に事実認定上の違法(審理不尽等)があることを主張し、かつこれを前提として同判決における累犯加重の違法を主張することは、非常上告の理由とならない。