刑法第二五条第二項によれば、前に禁錮以上の刑に処せられたことがあつても、その執行を猶予された者が、一年以下の懲役又は禁錮の言渡を受け情状特に憫諒すべきものであるときは再び執行を猶予することができるのであるが、一年を超える懲役又は禁錮の言渡を受けたときは、その執行を猶予することはできないのである。しかるに原判決は前示の如き執行猶予中の前科があることを認め且つ被告人を懲役一年六月に処しながら刑法二五条二項を適用し右懲役刑の執行を猶予する旨の判決を言渡したことは、明らかに右刑法の条項に違反したものであつて、本件非常上告はその理由がある。そして原判決は被告人のため不利益でないから刑訴四五八条一号本文の規定に従い、その違反した部分のみを破棄すべきものとする。
刑法第二五条第二項を適用できない場合にこれを適用した判決の違法と非常上告
刑法25条,刑法25条ノ2,刑訴法454条,刑訴法458条1号
判旨
刑法25条2項に基づき、執行猶予中の者が更に執行猶予(再度の執行猶予)を得るためには、言い渡される刑が「1年以下の懲役又は禁錮」であることを要し、これを超える刑を言い渡す場合には執行を猶予できない。
問題の所在(論点)
執行猶予期間中の者が新たな罪を犯した場合において、刑法25条2項に基づき再度の執行猶予を付すための「言い渡される刑」の範囲が問題となる。
規範
刑法25条2項の規定によれば、前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が、更に執行を猶予されるためには、「1年以下の懲役又は禁錮の言い渡し」を受け、かつ「情状特に憫諒すべきもの」であることを要する。したがって、1年を超える懲役又は禁錮の言い渡しをする場合には、同条項を適用して執行を猶予することはできない。
重要事実
被告人は、窃盗罪により懲役1年・執行猶予5年の判決を受け(後に懲役9月・執行猶予3年9月に減軽・短縮)、現在その執行猶予期間中であった。被告人は、当該期間内に電車内で他人のハンドバッグから金品を窃取しようとした窃盗未遂の犯罪事実を認めた。原審(東京簡易裁判所)は、被告人に対し懲役1年6月を処した上で、刑法25条2項を適用し、5年間の執行猶予及び保護観察に付する旨の判決を言い渡し、これが確定した。
事件番号: 昭和29(さ)4 / 裁判年月日: 昭和29年11月25日 / 結論: 破棄自判
昭和二九年法律五九号の附則二項は、同法施行前の犯罪については、同法施行後の犯罪と併合罪に当らない限り、右刑法二五条ノ二、一項前段の改正規定の適用がない旨を規定しているから、右法律五七号施行前のみの犯罪にかかる本件被告事件につき刑の執行猶予を言い渡す場合において、被告人を保護観察に対することを得ないものであることもまた明…
あてはめ
本件において、被告人は既に窃盗罪による執行猶予期間中であり、再度の執行猶予の可否は刑法25条2項の要件に従って判断される。同条項が再度の執行猶予を認めるのは、言い渡される刑が「1年以下の懲役又は禁錮」である場合に限定されている。しかし、原審が被告人に言い渡した刑は「懲役1年6月」であり、法律が定める上限である1年を超えている。それにもかかわらず、原審が刑法25条2項を適用して執行猶予を付したことは、同条項の適用範囲を誤った明白な法令違反である。
結論
被告人に対し1年を超える懲役刑を言い渡しながら、刑法25条2項を適用して執行猶予を付すことはできない。原判決のうち、同条項を適用した部分は法令に違反するため、非常上告に基づき当該部分を破棄する。
実務上の射程
再度の執行猶予(刑法25条2項)の限界を明示した判例である。答案上は、執行猶予の可否を論じる際、特に「1年以下の懲役・禁錮」という刑期制限が絶対的な要件であることを示す際に参照する。本件は非常上告の手続であるが、実体法上の要件解釈は通常の上訴審や第一審の判決指針としてそのまま適用される。
事件番号: 昭和30(あ)4104 / 裁判年月日: 昭和31年11月22日 / 結論: 破棄自判
一 刑法第二五条第二項は、前に禁錮以上の刑に処せられたその執行を猶予せられた者に対して一年以下の懲役または禁錮の言渡をなす場合に再度の執行猶予の言渡をなすことができる趣旨である。 二 刑訴第四〇六条刑訴規則第二五七条によつて受理された事件についても、同法第四一一条を適用することができる。
事件番号: 昭和28(さ)2 / 裁判年月日: 昭和28年3月20日 / 結論: 破棄自判
原判決において当時被告人の判示前科の刑が執行猶予中であることを認定しながら、刑法五六条、五七条を適用して累犯加重をした上被告人を懲役一年に処する旨の言渡をなしたことは、右各法条の適用を誤つた違法があり、本件非常上告は理由があるのみならず、原判決は被告人のため不利益であること明らかであるから、刑訴四五八条一号により原判決…
事件番号: 昭和23(そ)2 / 裁判年月日: 昭和24年2月8日 / 結論: その他
右連続犯については、その一部について、さきに東京地裁において有罪の判決の言渡があり、その判決の確定したことは前述のとおりであるから、右確定判決の効力は、當然に、その連続犯の他の一部をなす本件犯罪にも及ぶものと云わなければならぬ。されば、本件公訴にかかる犯罪事實については、舊刑事訴訟法第三六三條第一號に從つて兔訴の言渡を…