記録によれば、京都簡易裁判所所は昭和二五年二月一五日の判決において、被告人に對して窃盜の事實を認定したが、被告人は昭和二二年六月三〇日大阪地方裁判所において窃盜罪として科せられた懲役一年六月の刑の執行を當時既に終つたものとして、刑法第五六條および第五七條を適用し、被告人を懲役二年六月に處する旨の言渡をなし、右判決は同年三月二日確定するに至つたことが明らかである。しかし大阪地方裁判所の右の判決は、被告人を懲役一年六月に處し、裁判確定の日から三年間刑の執行を猶豫する旨のものであつて、京都簡易裁判所が本件判決を言渡した當時は、その刑の執行猶豫期間中にあり、未だ、刑の執行を終つていなかつたこと所論の通りである。從つて原判決が被告人に對して、再犯による刑の加重をしたことは、法令の適用を誤つたものである。それ故本件非常上告はその理由があるものと認める。
刑の執行猶豫期間中の者で、刑の執行をうけていない者に對し再犯加重をした判決と非常上告
刑法56條1項,舊刑訴法520條
判旨
懲役刑の執行猶予期間中にある者は、刑の執行を終えたものとはいえないため、刑法56条1項の再犯として刑を加重することはできない。
問題の所在(論点)
懲役刑の執行猶予期間中にある者に対し、刑法56条1項を適用して再犯加重を行うことができるか。すなわち、執行猶予期間中の状態が「刑の執行を終わった」ことに該当するかが問題となる。
規範
刑法56条1項にいう「懲役...の執行を終わった」とは、現実に刑の全期間を終了したことを指し、執行猶予期間中の者は、いまだ刑の執行を終わっていないため、再犯加重の要件を欠く。
重要事実
被告人は昭和22年に窃盗罪により懲役1年6月、執行猶予3年の判決を受けた。その執行猶予期間中である昭和25年2月、被告人は再び窃盗の事実により京都簡易裁判所で判決を受けたが、同裁判所は前罪の刑の執行を既に終えたものと誤認し、刑法56条および57条を適用して再犯加重を行い、被告人を懲役2年6月に処した。この判決が確定したため、検事総長が法令適用の誤りを理由に非常上告を申し立てた。
あてはめ
本件において、被告人は前罪の判決により懲役1年6月、執行猶予3年の言渡しを受けており、後罪の判決時においてはいまだその猶予期間中にあった。したがって、被告人は「刑の執行を終わった」者には当たらない。それにもかかわらず、原判決が被告人を再犯として加重したことは、刑法56条および57条の解釈を誤り、適用すべきでない規定を適用した法令違反があるといえる。
結論
執行猶予期間中の再犯加重は認められない。原判決を破棄し、再犯加重を排した適法な刑期(懲役2年)の範囲内で改めて刑を言い渡す。
実務上の射程
再犯加重の要件(刑法56条1項)に関する基本判例である。執行猶予中の犯行は再犯加重の対象外であるが、執行猶予の取消事由(刑法26条等)に該当し得ること、および刑法45条の併合罪の問題が生じ得る点に注意して答案を構成すべきである。
事件番号: 昭和28(さ)2 / 裁判年月日: 昭和28年3月20日 / 結論: 破棄自判
原判決において当時被告人の判示前科の刑が執行猶予中であることを認定しながら、刑法五六条、五七条を適用して累犯加重をした上被告人を懲役一年に処する旨の言渡をなしたことは、右各法条の適用を誤つた違法があり、本件非常上告は理由があるのみならず、原判決は被告人のため不利益であること明らかであるから、刑訴四五八条一号により原判決…
事件番号: 昭和29(さ)3 / 裁判年月日: 昭和29年9月17日 / 結論: その他
刑法第二五条第二項によれば、前に禁錮以上の刑に処せられたことがあつても、その執行を猶予された者が、一年以下の懲役又は禁錮の言渡を受け情状特に憫諒すべきものであるときは再び執行を猶予することができるのであるが、一年を超える懲役又は禁錮の言渡を受けたときは、その執行を猶予することはできないのである。しかるに原判決は前示の如…