判旨
金銭供与罪と立候補届出前の選挙運動罪が、一個の行為により数個の罪名に触れる場合、刑法54条1項前段により観念的競合として処理されるべきである。
問題の所在(論点)
金銭供与罪と立候補届出前の選挙運動罪が同時に成立する場合の罪数関係(刑法54条1項前段の成否)。
規範
一個の行為が数個の罪名に触れる場合には、刑法54条1項前段の観念的競合となり、科刑上一罪として処理される。
重要事実
被告人が、立候補の届出前において選挙運動を行うとともに、その一環として金銭を供与した。第一審判決は、この行為を金銭供与罪(買収罪等)と立候補届出前の選挙運動罪の双方に該当するものとし、一個の行為が数個の罪名に触れるものと判断した。これに対し、弁護人は法令違反等を理由に上告した。
あてはめ
本件において、被告人による金銭の供与は、それ自体が公職選挙法上の買収罪等に該当すると同時に、立候補届出前の選挙運動という態様で行われている。このように、金銭を供与する行為が直ちに事前運動としての性格を帯びている場合、それらは一個の活動の法的側面が重なり合うものといえる。したがって、これら二罪は「一個の行為にして数個の罪名に該るもの」と解される。
結論
金銭供与罪と立候補届出前の選挙運動罪は、一個の行為により数個の罪名に触れるものとして、観念的競合(刑法54条1項前段)の関係に立つ。上告棄却。
実務上の射程
公職選挙法違反の事案において、一つの金銭供与行為が複数の禁止規定に抵触する場合の罪数処理の指針となる。答案上は、数個の構成要件を充足する具体的行為が物理的・社会的に「一個」であるかを認定した上で、刑法54条1項前段を適用する際の本例として活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)3030 / 裁判年月日: 昭和30年5月19日 / 結論: 破棄自判
原判決の是認した第一審判決の被告人Aの所為に対する法律適用において、買収の点につき公職選挙法二二一条第一項一号の規定のほか同法第一二九条を適用した点並びに本件一個の行為にして数個の罪名に触れる場合の法定刑の比較をするに際し、まず各条の所定刑の選択をした点等その法律適用の措置失当であるばかりでなく、同被告人に対する本件犯…