原判決の是認した第一審判決の被告人Aの所為に対する法律適用において、買収の点につき公職選挙法二二一条第一項一号の規定のほか同法第一二九条を適用した点並びに本件一個の行為にして数個の罪名に触れる場合の法定刑の比較をするに際し、まず各条の所定刑の選択をした点等その法律適用の措置失当であるばかりでなく、同被告人に対する本件犯罪の日時、金額、犯罪の態様、被告人の経歴その他記録に現われた一切の情状を綜合すると、同被告人に対する刑は甚だしく不当であつて、刑訴第四一一条を適用して同判決を破棄するを相当とする。
刑訴第四一一条にあたる一事例 ―量刑の不当―
刑訴法411条
判旨
公職選挙法違反の事案において、事前運動と買収が一個の行為で行われた場合、刑法54条1項前段の観念的競合として処理し、重い罪の刑に従って処断すべきである。
問題の所在(論点)
事前運動と買収が同一の行為により行われた場合の罪数関係、および観念的競合における法定刑比較の手順。また、刑事訴訟法411条に基づく職権による判決破棄の可否。
規範
一個の行為が数個の罪名に触れる場合(刑法54条1項前段)、各条の所定刑を比較し、最も重い刑を定めている規定の刑に従って処断する。その際、各条の所定刑を選択した上で比較を行う。公職選挙法上の事前運動罪と買収罪が同一の行為によって行われた場合、これらは観念的競合の関係に立つ。
重要事実
被告人Aは、公職選挙法で禁じられている事前運動(同法129条)および買収(同法221条1項1号)を行ったとして起訴された。第一審および原審は有罪判決を下したが、その法律適用において、買収の点につき事前運動の規定(129条)を重ねて適用し、また観念的競合の法定刑比較の際に各条の所定刑の選択を先行させる等の措置に失当があった。また、被告人の犯罪態様や経歴等の情状に照らし、量刑も甚だしく不当であった。
あてはめ
本件における事前運動の点と買収の点は、一個の行為により数個の罪名に触れる場合に該当する(刑法54条1項前段)。したがって、刑法10条により重い方の罪である買収罪の刑に従うべきである。第一審がこれらの罪を適用する際に行った法律適用のプロセスは失当であり、犯罪の日時、金額、態様、被告人の経歴等の諸般の情状を総合考慮すると、原判決の量刑は著しく不当であると認められる。
結論
被告人Aに関する有罪部分を破棄し、観念的競合として買収罪の刑に従って処断する。情状に鑑み、懲役3月、執行猶予1年を言い渡すとともに、選挙権・被選挙権の不停止規定を適用する。
実務上の射程
一個の選挙違反行為が複数の罪名に該当する場合の罪数処理(観念的競合)を明確にした事例である。司法試験においては、公職選挙法そのものの詳細は重視されないが、刑法総論の罪数論(観念的競合の処理手順と法定刑比較)の基本例として参照し得る。
事件番号: 昭和29(あ)2091 / 裁判年月日: 昭和29年9月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】金銭供与罪と立候補届出前の選挙運動罪が、一個の行為により数個の罪名に触れる場合、刑法54条1項前段により観念的競合として処理されるべきである。 第1 事案の概要:被告人が、立候補の届出前において選挙運動を行うとともに、その一環として金銭を供与した。第一審判決は、この行為を金銭供与罪(買収罪等)と立…