買収犯の如く法定の期間内であると否とに拘らずそれ自体違法な選挙運動行為が数個ある場合には、事前運動の場合でも各行為毎に犯罪が成立する。
立候補届出前における数個の買収と犯罪の個数
公職選挙法221条1項1号,公職選挙法239条1号,公職選挙法129条,刑法45条,刑法54条1項
判旨
立候補届出前に行われた数個の買収行為は、公職選挙法129条の事前運動禁止に違反するだけでなく、買収罪自体が各行為ごとに成立するため、それらは包括一罪ではなく併合罪として処断される。
問題の所在(論点)
立候補届出前に行われた数個の買収行為(金品供与等)が、事前運動の禁止期間内である場合に、包括一罪として扱われるのか、あるいは各行為ごとに罪が成立し併合罪として扱われるのか。
規範
公職選挙法129条が定める事前運動の制限は、常時選挙運動が行われる弊害を防止し選挙の公正を期するための時期的な制限にすぎない。したがって、買収行為のように、法定期間の内外を問わずそれ自体が違法とされる行為が数個ある場合には、たとえそれが事前運動に該当する期間内であっても、各行為ごとに独立して犯罪が成立し、併合罪の関係に立つ。
重要事実
被告人は、立候補届出前において、特定の候補者への投票を目的として金品の供与及びその申込を短期間のうちに継続・反復して行った。原審は、これらの行為は事前運動の罪として包括一罪を構成し、それと買収罪とは観念的競合の関係にあるとして全体を一罪としたが、検察官がこれを不服として上告した。
あてはめ
買収罪は、その時期を問わず行為自体が独立して強い違法性を有する。本件で行われた金品の供与及びその申込という個々の行為は、それぞれが買収罪の構成要件を充足するものである。これらが事前運動禁止期間中に行われたからといって、時期制限違反としての事前運動の罪に吸収・包括されるものではない。したがって、個々の買収行為とそれに対応する事前運動の罪は観念的競合(刑法54条1項前段)となるが、数回にわたる各行為間は併合罪(刑法45条前段)として処断すべきである。
結論
立候補届出前の数個の買収行為は、行為ごとに事前運動の罪との観念的競合となり、各行為相互間は併合罪となる。
実務上の射程
選挙犯罪における罪数判断の基準を示す。事前運動が包括一罪的性質を帯びる場合であっても、買収のような実質的違法性が高い行為については、個数ごとに罪の成立を認めるべきとする射程を有する。答案上は、複数の法益侵害行為が反復された場合の罪数処理として引用する。
事件番号: 昭和31(あ)405 / 裁判年月日: 昭和31年5月29日 / 結論: 棄却
公職選挙法二二一条一項各号の規定は、その所定の行為が反覆継続されること又は反覆継続の意思をもつてなされることを犯罪成立の要件としているものと解することはできないので、所論のように継続犯として一罪を構成するものではない。それ故、原判決が併合罪として処断したことについては所論の違法もない。