被告人の本件所為中、法定外選挙運動文書の頒布は単純一罪を、各供与申込は被申込人ごとに一罪を構成し、頒布罪と供与申込罪とは一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五四条第一項前段により、結局全部一罪として処断すべき場合に該当し、この点に関する第一、二審の判示は正当である。
公職選挙法違反罪において一個の行為にして法定外文書の頒布につき単純一罪を、金銭供与申込につき数罪を構成する場合の適条。
公職選挙法142条,公職選挙法221条,公職選挙法243条3号,刑法54条1項,刑法10条
判旨
被告人が行った法定外選挙運動文書の頒布と各供与申込の行為が、一個の行為により数個の罪名に触れる場合には、刑法54条1項前段により観念的競合として全部一罪で処断すべきである。
問題の所在(論点)
1.法定外選挙運動文書の頒布罪と、複数の被申込人に対する供与申込罪が一個の行為により行われた場合の罪数関係はどうなるか。 2.控訴審において第1審判決の理由不備等の主張に対する判断が遺脱された場合、直ちに判決に影響を及ぼすべき違法となるか。
規範
一個の行為が数個の罪名に触れる場合(刑法54条1項前段)、それらは観念的競合として処理され、科刑上の一罪(全部一罪)として扱われる。また、控訴審が第1審判決に理由不備等の違法があるとの主張に対し判断を遺脱した場合であっても、記録に照らし事由が明白であり判決に影響を及ぼさないことが明らかなときは、直ちに破棄事由とはならない。
重要事実
被告人は、法定外選挙運動文書を頒布するとともに、複数の被申込人に対して供与の申し込みを行った。第1審および第2審は、文書の頒布は単純一罪、各供与申込は被申込人ごとに一罪を構成するとした上で、これらが一個の行為により行われたものであるとして、刑法54条1項前段(観念的競合)を適用し、全部一罪として処断した。弁護人は、第1審判決の証拠説明に不明確な点があり理由不備がある旨を控訴審で主張したが、原審はその点への判断を遺脱したまま自判した。
あてはめ
1.被告人の所為のうち、文書頒布はそれ自体で単純一罪であり、各供与申込は相手方ごとに罪が成立するが、これらが「一個の行為」として行われた以上、刑法54条1項前段の観念的競合に該当する。したがって、全部を一罪として処断した原判断は正当である。 2.原審が第1審の証拠表示の不明確さ(理由不備の主張)に対して判断を省略した点には判断遺脱の違法がある。しかし、第1審判決の判文と記録を対照すれば、「関係部分」「関係調書」が具体的にどの証拠を指すかは明白に認められる。したがって、当該判断遺脱は判決に影響を及ぼさない。
結論
被告人の行為は観念的競合として全部一罪を構成する。また、原審の判断遺脱は、結論に影響を及ぼさないことが明白であるため、上告は棄却される。
実務上の射程
罪数論における観念的競合の具体例(選挙犯罪)として機能する。また、訴訟法上は、判断遺脱等の手続違法があっても、記録上実質的な不備がないことが明白であれば「判決に影響を及ぼすべき違法」には当たらないという、刑訴法上の救済基準(411条等に関連)を示している。
事件番号: 昭和30(あ)3608 / 裁判年月日: 昭和31年4月24日 / 結論: 棄却
選挙人の買収を依頼されてその費用の供与を受けた罪と、右依頼に基いて選挙人に対し投票の報酬として金員を供与した罪とは索連犯の関係に立つものではない。